北海道を車で長距離移動すると多くの市町村を通過しますが、その際、どれほど小さな町村でも必ずと言っていいほど見かける建物があります。白地に赤い「〒」の記号が印象的な郵便局です。
郵便局は郵便や物流だけでなく、銀行(ゆうちょ銀行)、生命保険(かんぽ生命)など多様な機能をもち、地域社会にとって不可欠なインフラとしての役割を果たしてきました。
しかし、インターネットの普及に伴い通信手段は急速に多様化。取り扱う郵便の量は年々減少しています。
全国に張り巡らされた郵便網は大きな岐路に立たされています。
◯巨大なネットワーク
人口約2600人の「日本一小さな市」、北海道歌志内市。この小さな街を横断する道道114号線沿いのわずか5キロメートルほどに3つの郵便局があります。今年5月に現地を訪れた際は、郵便ネットワークの強大さを改めて実感させられました。
日本郵便によると24年7月31日時点で営業中の郵便局は23,519局(注1)。これはコンビニ最大手セブンイレブンの国内店舗数(約21,600店)を凌ぎます。拠点は過疎地域や離島にも広がり、郵便局のある地点に印をつければ、日本列島の形が克明に浮び上がるとさえ言われています。
圧倒的な大きさを誇るネットワークが、日本の地域社会の生活を支えているのです。
◯苦境の郵便事業 10月、郵便料金値上げ
しかし、今、郵便網は苦境に立たされています。
総務省の情報通信白書によると、23年度の引受郵便物数は約136億通で、10年前の約186億通から27%ほど減少しています。
郵便量の低迷は業績を圧迫しています。日本郵政が5月に公表した「2024年3月期 決算の概要」によると、日本郵便の経常利益は前期比774億円減の21億円と、売上高や営業外の収入などを合算した3.3兆円の経常収益から考えると極めてわずかです。郵政グループ全体の決算でも、不振の郵便事業を銀行、生命保険、不動産などが支える形になっています。
こうした状況を踏まえ、来月1日から郵便料金が見直されます。通常はがきは63円から85円に、定形郵便物は84円(25グラムまで)と94円(50グラムまで)から110円(50グラムまで)になるなど、幅広い品目で大幅な値上げが行われる予定です。
取扱量の減少を補い、郵便サービスを安定的に提供するために郵便料金の引き上げは避けては通れない状況になっています。
「ユニバーサルサービス」とされる郵便事業には、あらゆる地域で均質なサービスの提供が求められています。日本列島に毛細血管のように張り巡らされた郵便網は地域社会での生活に不可欠であり、その維持のためにも祖業の郵便事業で稼ぐ力の回復が求められています。ただ、郵便離れが急速に進む中、値上げ以外に決め手を欠くのが現状と言えるのではないでしょうか。
注1:(出典)日本郵便株式会社Webサイト「郵便局局数情報〈オープンデータ〉」
参考記事:
日経電子版「郵政、競争力どこに(下)日本郵政、難路の900億円増益 郵便・物流稼ぐ力弱く」(2024年5月24日)
日経電子版「郵政、競争力どこに(上)日本郵政、目覚めぬ巨大郵便網 自立進まずPBR0.45倍」(2024年5月23日)
日経電子版「日本郵政、強まる「金融依存」 祖業の郵便で成長描けず」(2024年5月15日)
参考資料: