世界遺産・姫路城の入城料について、兵庫県姫路市が「市民」と「市民以外」との二重料金を設定する方針をまとめました。市民は現行通りの1千円(18歳以上)に据え置き、市民以外はその2〜3倍に値上げする予定です。石垣の保存など、維持管理に必要な財源を十分に確保することが目的です。
当初は、インバウンド(訪日外国人)旅行者の料金のみを高く設定する意向を示し、波紋を投げかけていました。本稿では、増加する外国人旅行者の状況や、外国人と日本人で異なる料金を設定する「二重価格」について考えていきます。
◾️インバウンドの増大と影響
新型コロナウイルスの行動制限や水際対策が緩和され、また、円安が加速したことで、外国人旅行者数は大きく増加しています。JNTO(日本政府観光局)の統計によると、コロナ禍前の2019年同月と比較して、24年7月の訪日外国人数は1割以上増加しています。
これにより観光地に活気が戻った一方で、接客コストの増大やオーバーツーリズムが問題となっています。英語を話せるスタッフを配置したり、説明に時間をかけたりすることで、外国人観光客を受け入れるための経費が割高になりがちです。また、人気スポットに集中する観光客によって、交通渋滞やゴミの散乱、迷惑行為など地域への悪影響も見られます。
◾️「二重価格」
これらの状況から、外国人には値上げし、日本人や地元住民には従来通りの価格で提供する二重価格制度が導入されようとしています。これにより地元の負担や不満はかなり和らぐかもしれません。
しかし、単純な二重価格は不信や不快を招くことがあり、実施には工夫が必要です。また、観光客の国籍をどのような方法で判定するのか、という課題も残ります。 専門家は「『外国人だけ』という理由付けを明確に示す必要がある」と指摘しています。
◾️国外における「二重価格」設定
日本国内ではあまり馴染みのない二重価格ですが、国外の主要な観光地では珍しくありません。
各施設のサイトによると、自国民と外国人間の入場料に差をつけている観光地はいくつもあります。例として、ギザのピラミッド(エジプト)では約9倍、タージマハル(インド)では約21倍の差があります。
◾️国内の現状と今後
文化庁や消費者庁によると、日本でも施設設置者の判断で二重価格を設けることは可能とのことです。ただ、国内の公的施設での導入例は把握していないそうです。
すでに二重価格を設定する飲食店は存在します。国内在住者には一定額を割り引くことで、事実上導入しているのです。こうした飲食店は増加するかもしれません。それに影響され、自治体が管理する観光地でも導入される可能性もあります。
メリットが大きいように思える二重価格ですが、訪日外国人観光客をどのように見分けるのか、また、在留外国人に対してインバウンド価格を適用するのか、施設によって異なり混乱が生じる可能性があります。この点が二重価格の問題であると筆者は考えます。海外からの旅行者が増加している今こそ、注視していくべき問題ではないでしょうか。
参考記事
・9月5日 朝日新聞デジタル 「姫路城入城料、市民以外は2~3倍に 市方針、市民1000円維持」 https://www.asahi.com/articles/DA3S16026678.html
・7月12日付 読売新聞オンライン 「訪日客向け『二重価格』、導入の飲食店『接客にコスト』…台湾からの客『たいした金額差ではない』」https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240712-OYT1T50078/
・2023年12月27日 「[社説]外国人価格の設定は根拠を説明可能に」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD26DOI0W3A221C2000000/
参考文献
・JNTO(日本政府観光局)「訪日外客数(2024 年 7 月推計値)」 20240821_1530-1.pdf (jnto.go.jp)