語学学校先で出会った友達とバンクーバーを遊び尽くし、おしゃれなカフェやレストランでフルタイム働いて充実した日々を過ごす―
これは私が当初描いていたバンクーバーでの生活でした。カナダにやってきて5ヶ月経った今、夢の6割ほどは叶えられているような気がします。
数多くの帰国する留学生を見送りつつも、数少ない友達とバンクーバーで遊び、英語を学びつつ韓国人が経営する日本食レストランでバイトとして週4日働く。これが私の最近の日常です。仕事を探し始めた4ヶ月前と比べたら断然今の方が満たされた生活を送ることができています。
「出稼ぎワーホリ」。 最近、30歳までの若者の間で注目を集めている留学方法の1つです。ワーホリとはワーキングホリデーという長期休暇を楽しみながら、滞在先での資金は仕事の収入で賄うものです。
この頃、テレビや新聞でもワーホリの実情について報じられることが増えています。特にオーストラリアへワーホリで行ったのにもかかわらず、仕事が見つからないため、街頭の食料配布に並ぶ日本人がいるというニュースは衝撃的でした。中には、十分な英語力を持っているのにもかかわらず仕事が見つからない人もいます。
今、オーストラリアでは何が起こっているのでしょうか。ワーホリでやってきた日本人同士が職の取り合いをしているのです。筆者がいるカナダでも仕事を探すのには一苦労しました。周りのワーホリで来た友人も含めて、平均で2ヶ月ほど仕事が見つかるまでにかかりました。履歴書(レジュメ)は数えきれないほど配りました。
しかし、オーストラリアでの仕事の取り合いはカナダと比較してもより激しいものだと思います。理由は年間に発行されるワーキングホリデービザの数にあるのでしょう。カナダの発行数には制限があり、年間6500人までとされています。そして例年、定員数に達しています。
一方のオーストラリアには制限がありません。7月4日の朝日新聞によると、年間約15000人がワーホリのビザを取得したとされています。カナダと比べて約2倍以上の若者がオーストラリアに渡り、仕事を探していると考えると、断然職探しが難しいことが分かります。
報道の中では食料の配給に並んでいる日本人がいることも報じられていました。カナダはどうでしょうか。ダウンタウンの東側にあるヘイスティングストリート上で3mほどの列を見つけました。その先には何か食事を作っている姿がありました。列に並ぶ人たちはほとんどがホームレスや薬物使用者で日本人を含む留学生が並ぶ様子はありませんでした。その地域は「ホームレスの溜まり場」のような場所で留学生には足を踏み入れづらいのかもしれません。
ヘイスティングストリート上の食料配布の列に並ぶ人々たち=2024年8月19日、松本花音撮影
また、現地のサイトを調べているとダウンタウンから西へバスと電車で向かった先にあるラフヒードハイウェイにフードバンクがあることを知りました。Greater Vancouver Food Bank (GVFB)と呼ばれる飢餓の危険に晒されている人に食糧支援をするために設立された慈善団体です。バンクーバー、バーナビーそしてノースバンクーバーでも食料を配布しており、週に1回食料を受け取ることができます。実際にラフヒードハイウェイのフードバンクへ足を運んでみました。
ラフヒードハイウェイのフードバンク(7名ほど並ぶ姿が写真左側にあり)=2024年8月24日、松本花音撮影
建物の周辺は2.5mほどの柵で囲まれており、警備員も数名いました。雨が理由なのか、ヘイスティングストリートで見たような長蛇の列もなく日本人も見かけませんでした。カナダということもあり多国籍の人が食料を受け取りに来ているようで、子供連れの家族や50代くらいの夫婦などの姿が目立ちました。登録をしていないと入ることが出来ず、中の様子を見ることはできませんでしたが、入っていく人が途切れることはありませんでした。
何れも留学生の姿は見られませんでした。しかし、2年前のCBCの記事でオンタリオ州にあるフードバンクが「No international Students‼︎(留学生はお断り)」という張り紙を出したと書かれていました。カナダにも食事に困る留学生たちが存在するということです。
筆者の周りで仕事が見つからず、帰国せざるを得ない人を見かけたことはありません。とはいえ、日本の方がカナダと比べて結果的に稼ぐことができるから帰国を選んだという人はいます。カナダの最低賃金は17.40カナダドル。日本円にすると1860円です。東京の最低賃金が1113円ですから、カナダで働いた方が多く稼げると思うかもしれません。ですが、こちらで働き先が見つかったとしてもフルタイムで雇ってくれるところは多くありません。また、カナダでもワーホリ同士での職の取り合いはあり、おのずと1人が働ける時間は少なくなってしまうのです。仕事が上達しなければ、労働時間を減らされてしまう人もいます。
仕事が見つかるまでも、仕事が見つかってからも「出稼ぎワーホリ」を目的として来ている人にとっては苦労する日々が続いてしまうのでしょう。
円安の影響で海外に出て稼ごうとする人が増えていますが、想像以上に厳しいのです。出発までに自分の英語力と応募したい仕事に対するスキルを身につけておく覚悟が求められていることを忘れてはなりません。
参考記事:
・7月31日付、朝日新聞デジタル、「【解説人語】ワーホリ大国オーストラリア 「出稼ぎバブル」の実情」
・7月4日付、朝日新聞デジタル、「円安で膨らむワーホリ日本人「出稼ぎバブル」 仕事見つからない人も」
・7月4日付、朝日新聞デジタル、「「仕事ない」豪ワーホリ ホームレス向け無料食料に日本の若者ら行列」
・3月19日付、日本経済新聞、「豪ワーホリに日本の若者殺到 工場で月50万円稼ぎ描く夢」
・2023年10月25日付、CBC、「As cost of living soars, millions of Canadians are turning to food banks」
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参考文献:
・The Greater Vancouver Food Bank(2024年8月26日取得)