スポーツが一役買う? 多文化共生の実現 (後半)

7月のフランス国民議会の総選挙では、左派の政党連合が最大勢力となったものの、「反移民」的な立場の右派勢力が伸長しました。グローバル化から取り残され、周縁で生きる人々にとって、「国民の主権と誇りを」という右派の訴えが響いているのです。この選挙を前に、サッカー・フランス代表の主将エムバぺは国民にこう呼びかけました。「多様性と寛容、尊重こそがフランスの価値観のはずだ。分断を招く極端な思想には反対する」

彼自身、カメルーン出身の父と、アルジェリア系の母という移民の家庭で育ち、低所得の移民が多く暮らす地区でボールを蹴っていました。現在は、世界屈指のストライカーとして名をはせています。さらに、パリ五輪でも、様々なルーツを持つアスリートらが仏代表として活躍しました。スポーツからフランス社会の多様性が垣間見えます。

 

また、パリ五輪唯一の新競技として「ブレイキン(ブレイクダンス)」が採択されたことは、移民社会の融和を象徴しています。

ブレイキンは70年代、米ニューヨークの貧困地区の路上で生まれました。縄張り争いをするギャングたちが暴力ではなく、音楽と踊りで勝負したのが起源と言われています。フランスではブレイキンは、80年代に「バンリュー」と呼ばれる大都市の郊外に住む移民系の若者らを中心に広まりました。なかでもバニョレ市を含むセーヌサンドニ県はフランスのブレイキン発祥地とされています。この地域には移民や貧困層が多く、「治安が悪い」などの偏見もあります。しかし、パリ五輪では競技場や選手村を抱え、実質的な開催地としての役割を担った上に、五輪新競技のフランスにおける発祥地として注目を集めました。

ステージに立つダンサー=朝日新聞より引用

 

移民系の選手らで構成されたサッカー・フランス代表が自国開催の98年W杯で初優勝してから24年のパリオリンピックに至るまで、共生社会への希望を示すと同時に、スポーツのもつソフトパワーが分断解消の一助となっていることを感じさせました。その一方で、五輪施設の工事現場では、契約書なしで雇われ、違法に低い賃金しか払われず、しばしば残業をしていた移民労働者も存在しました。きらびやかなスポーツイベントの陰に、虐げられている人はいないか、注視が必要です。

次の世代の子どもたちが、文化や言語の違いに関わらず、スポーツを通じて互いを認め合い、自由に生き生きと過ごせるような社会が実現することを願います。

 

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参考記事:

11日付 胸躍る、ブレイキン パリ郊外、80年代から移民系らに人気 パリ五輪:朝日新聞デジタル (asahi.com)

6日付 (耕論)右傾化?欧州はいま 堀茂樹さん、中井遼さん、伊藤さゆりさん:朝日新聞デジタル (asahi.com)

7月26日付 98年W杯優勝が起爆剤 ダバディさんが語る仏のスポーツ観の変化 – パリオリンピック:朝日新聞デジタル (asahi.com)

7月23日付 (多事奏論)エムバペの叫び 五輪迎える母国、多様性と分断と 稲垣康介:朝日新聞デジタル (asahi.com)