平和の祭典が私たちに伝えること

先日、パリオリンピックが終了しました。パリとの時差7時間と闘いながら、多くの人が応援に力を注いだのではないでしょうか。初めて種目となったブレイキン(=ブレイクダンス)では湯浅亜実選手(ダンサー名:AMI)が金メダルを獲得し、馬術では「初老ジャパン」と呼ばれる4人が92年ぶりに銅メダルを獲得するなど、素晴らしい結果を残しました。

結果を振り返ると、日本の金メダルは20個と海外開催の大会としては、04年のアテネ大会の16個を上回り最多となり、銀と銅のメダルも計25個獲得するなど、歴史的な記録を残す大会になったといえます。こうした成果の背景には、選手たちのたゆまぬ努力や、コーチなどの指導者側の質の向上など、様々な理由があると思います。

しかし、平和の祭典が開催されている一方で、「ロシアとウクライナの間での紛争」や「パレスチナやガザでの紛争」など、平和とは対極的な行動が続いている現実も忘れてはいけません。オリンピックとは、「人類最大の祭典」であり、スポーツを通じて世界を平和にしたいという願いから生まれた大会です。19世紀の終わり、教育者ピエール・ド・クーベルタンが平和を願ってはるか昔の祭典をよみがえらせたといいます。

では、平和の祭典であるオリンピックから学べることはなんでしょうか。

オリンピック憲章のオリンピズムの根本原則として、「肉体、意志、精神のすべての資質を高め、バランスよく結合させる生き方の哲学であり、スポーツを文化や教育と融合させ、生き方の創造を探求するもの」と記されています。また、「努力する喜び、模範となることの教育的価値、社会的責任、普遍的で根本的な倫理規範の尊重に基づく生き方を目指す」とあります。そして、オリンピズムの目的には、人間の尊厳を重んじる平和な社会の推進を目指し、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることにあるといいます。こうした考え方は、アスリートだけでなく、私たち全員が共有し、日々の生活に活かしていくべきものです。しかし、私たちのように観戦するだけではそれをすべて実感し、行動に移すことは難しいと思います。

ただ、開催期間中にX(=旧Twitter)で、大きな反響を呼んでいた映像があります。それは、対立関係にある国々の選手らが写真を撮る映像です。なぜこの瞬間がこれほどまでに反響を呼んだのか、また、これを見た人々、特にこれらの国々の関係を知る人々にとって、何か行動を起こすきっかけにもなるかもしれません。

筆者がこの記事を執筆しようと思ったのも、この映像を見たことが大きな動機の1つになっています。

紛争を解決することは、容易ではないのは事実です。ただ、オリンピックやパラリンピックを通じて、少しでも行動しようとする人が増えれば、平和へのきっかけになると考えています。

これから、パラリンピックが開催されます。ロシアとの紛争によって甚大な被害を受けているウクライナのエフゲニー・コリネツ選手が、シッティングバレーボールの選手として出場します。単なるスポーツの競技大会ではなく、平和と人間の強さを象徴するような集いになるはずです。多くの人が試合をみて、平和への思いを新たにし、支えあうことの大切さを学ぶ機会にできればと思います。そして、筆者自身もそこからできることを模索し、実践していきたいと考えます。

 

【参考記事】

23日付 朝日新聞朝刊(13版)14面(スポーツ)「芥川賞作家・市川沙央さんが考えるパラリンピック」

21日付 読売新聞朝刊(14版)1面 (社会) 「失意の仲間に希望を シッティングバレー代表 『ウクライナ勝利』決意」 関連面7、30面

14日付 読売新聞オンライン「パリオリンピック「銀」「銅」は25個…限界突破・脱パンダ、そして驚きのメダルも」

 

【参考資料】

公益財団法人日本オリンピック委員会「TEAM JAPAN」

アイキャッチ画像:「開会式当日、エッフェル塔がライトアップされる中、各国の選手らが到着したトロカデロ広場(7月26日、パリで)=上甲鉄撮影」(=読売新聞社)