2日ほど前、アルバイト先で接客をしているときに、耳が聞こえないお客様が来店されました。そのときは筆談で対応しましたが、「ありがとう」の一言すら直接伝えることができない自分に対する、もどかしさを感じました。
筆者は以前、聴覚障害の主人公を描いた映画『聲の形』を観た影響で、手話を学びたいと思ったことがありました。しかし、手話は思った以上に難しく、途中で挫折してしまいました。今回のアルバイト先での経験を通じて、再び挑戦したいと考え、「手話サークル」や「手話講座」「手話カフェ 大阪」など、インターネットで様々なキーワードを検索してみました。
その中で、「音を使わない接客」という言葉が目に留まりました。詳しく調べてみると、今年4月に大阪・梅田近くにオープンした「SHOJO(しょうじょう)カフェ」に辿り着き、実際に行ってきました。
店内に一歩足を踏み入れると、和の雰囲気が漂う静寂な空間が広がっていました。最初に店員さんからカードを使っての説明があり、注文はメニューを指さして行いました。机の上には「スタッフと話したいです」と書かれたパネルが置いてあります。これをスタッフに見える位置に置くことで、筆談や手話を使ったコミュニケーションを楽しむことができます。筆者は全く手話ができない状態でしたが、スマートフォンを使い、文字で会話を楽しみました。
このカフェでは現在、20人ほどのスタッフが働いており、その多くが聴覚障害者です。10代から20代の若いスタッフが7割を占めますが、全体では10代から50代まで幅広い年代の方がいるそうです。
副店長を務める田中佳奈さん(31)は、若いスタッフたちをまとめる存在です。「耳が聞こえないことでバイトとして雇ってもらえなかったり、接客を希望していたのにキッチンに回されたり、という経験を持つ子たちばかり。やっぱり聴覚障害があると、なかなか接客業につけない現状がある。ここは、そんな皆がいきいきと働ける良い場所だなと思います」と教えてくれました。
8月上旬から働き始めた富岡莉哉さん(21)は、新人とは思えないほどの丁寧で明るい接客で「ありがとうございました」「いらっしゃいませ」といった、アルバイト先で使うことができる簡単な手話を教えてくれました。練習を通じて、手話だけでなく、実際に「ありがとうございました」と口を動かすことや表情の重要性にも気づかされました。
富岡さんはお店で働くことについて、「普通のカフェは飲食物の提供が主な業務だが、ここではお客さんとお話をし、商品も作る必要があるから大変」。スタッフの人数が少ないときに一気にお客さんが来ると、非常に忙しくなるそうです。それでも「多くの人と手話や筆談で話すことができ、働いてみてとても楽しい」と笑顔で教えてくれました。
実際にお店を訪れてみて、フレンドリーな接客の魅力や、静かな環境で心が癒されることを実感しました。スタッフ同士で手話を使って冗談を言い合う様子も見られ、そのような仲の良い関係や、声を出しての「会話禁止」というルールがあるだけで、聴覚障害の有無に関わらず会話を楽しむことができる取り組みがとても素敵だと感じました。
このように環境を整えたり、手話を言語の1つとして新たに学んでみたりすることで、もっと多くの人々とつながり、理解を深めることができるのではないでしょうか。再び手話を学んでみようと決意した今、もし次にアルバイト先で耳が聞こえにくい方が来店されたときには、心から「ありがとう」を伝えられるようになりたいと思います。
参考記事:
5月11日付 朝日新聞夕刊 東京1面(総合)「会話禁止カフェ、静かな人気 筆談で交流『ストレス社会、心ほっと』」
5月17日付 読売新聞 「抹茶カフェ 自分でたてる すぐ飲めて香りも満喫」
16日付 日本経済新聞「自治体動画、鳥取は手話で共感の輪 愛媛はドローン駆使」
18日付 朝日新聞デジタル「愛知の森さんが1位 高校生手話スピーチコンテスト 佳子さまも出席」