空前の「選挙イヤー」 民主主義国家を試す

今年のお盆休みはいつになく慌ただしいものとなりました。

8日には南海トラフ地震の臨時情報が出され、東海道新幹線の一部区間で徐行運転が行われるなど、列島に緊張が走りました。

その6日後には、岸田首相の退陣表明という政界を揺るがすニュースが駆け巡りました。政治家や政治部記者たちはさぞ忙しい夏の連休を過ごしたことでしょう。

 

◯突然の退陣表明

岸田首相(自民党総裁)は14日、首相官邸での緊急会見で9月の党総裁選への不出馬を表明しました。任期中に相次いだ政治とカネの問題に対し党の最高責任者として責任をとった形となります。

早くも焦点は後任選びに移っています。紙面やネット上には後継候補の名前が並び、その動向が注目されます。

能力や人格、信念など求められる素質は数多くあるでしょうが、それらを駆使して長期的に安定した政権運営に努めることを後継者に求めたいものです。

短命政権が続き、「回転ドア」と揶揄された時代に後戻りするようであれば、外交の場での日本のプレゼンスも低下するでしょうし、何より、将来を見据えた政策の遂行が困難となるでしょう。

 

◯「選挙イヤー」の受難

多くの国々で大統領選や議会選が行われる世界的な「選挙イヤー」は、民主主義国家の指導者たちにとって受難の年となっています。

イギリス下院総選挙では、労働党が地滑り的な勝利を収めて14年ぶりの政権交代が実現しました。保守党は景気の低迷や不祥事に苦しみ、短命政権が続いていました。

11月に本選挙が行われるアメリカ大統領選挙でも大きな動きがありました。現職のバイデン大統領の撤退表明です。高齢不安を最後まで払拭することができず、退場を余儀なくされました。

主要7カ国(G7)では、今年だけで少なくとも3人の首脳が交代することになります。

その他の指導者も基盤は決して盤石ではありません。

フランス国民議会選挙では左派連合が最大勢力になりました。賭けに出たマクロン大統領は、極右勢力を抑えることにこそ辛うじて成功したものの、自身の率いる与党連合は大幅に議席を減らしました。

大国の政治的な混乱は経済、外交、安全保障などのあらゆる面において世界に影響を与えかねません。後継者には混乱を早期に収拾し、国内外に安定をもたらすことが求められます。

 

日本に話を戻すと、戦後の大半の期間で自民党が安定的な権力基盤を維持してきたにも関わらず、首相の在任期間の短さが目立ちます。総裁という党の表紙を変えることで政権を維持してきたという見方が正しいのかもしれません。

先の見通せない現代において、政治家には身内の論理にとらわれるのではなく、将来のビジョンを描くことが求められます。

「選挙イヤー」は日本の政治をも試しているのです。

 

参考記事:

日経電子版「Nikkei Views 続く不人気指導者の退場 民主主義の底力示せるか」(2024年8月16日)

8月15日付 朝日新聞朝刊1面「岸田首相 退陣へ 政治不信「身を引きけじめ」 総裁選の出馬断念 表明」

8月15日付 朝日新聞朝刊8面「社説 岸田首相 再選を断念 国民の信失った政権の限界」

8月15日付 読売新聞朝刊1面「岸田首相退陣表明 総裁選不出馬 政治とカネ「けじめ」 茂木、石破氏ら意欲」

8月15日付 読売新聞朝刊3面(総合)「スキャナー 刷新 若手に期待 「ポスト岸田」ベテランも」

日経電子版「フランス下院選、左派が最大勢力 極右は失速し第3党」(2024年7月8日)