農業は最大の「地球破壊産業」 ネパールで生ごみの堆肥化を行う木村さん

いま筆者は夏休みの旅行でネパールに来ています。アジアの中央に位置し北海道の約1.8倍の面積のネパール。およそ3000万人の人口が暮らしています。突然ですが、皆さんは日々食べている野菜にどのくらいの農薬や化学肥料が使われているか知っていますか?

ネパールで売られている野菜(8月16日、筆者撮影)

野菜に含まれる硝酸態窒素は過剰摂取すると、赤血球のヘモグロビンと結びつき全身に十分な酸素を運搬できなくなる症状を引き起こす可能性があります。1㎏あたり何㎎の硝酸態窒素が含まれているかは、ppmという値で示すことができます。

WHOによると10000ppmを超えると人体に影響があるとされていますが、日本で販売されている野菜の多くはこの数値を上回ります。人体に影響はないとされて使われている農薬や化学肥料は本当に安全なのでしょうか。ネパールで生ごみから堆肥を作るコンポスト事業を展開する木村悟郎さん(54)にお話を聞きました。

ネパールで生ごみの堆肥化を進める木村さん(8月13日、筆者撮影)

木村さんがネパールに住み始めたのは今から17年前のことです。日本で天真体道という武道や滝行を教えていましたが、日本の外を見てみたいという気持ちから移住しました。ネパールはアジアで最も貧しい国と言われており、特にごみ問題は深刻です。首都カトマンズ郊外にある最終処分場では、あまりの悪臭やコレラ等の伝染病が広がり近隣住民が処分場の入口を封鎖する抗議行動が起きるほどです。

首都の隣のティミ市(8月15日、筆者撮影)

人口のおよそ8割は農業で生活をしています。しかし、農業は最大の地球破壊産業といわれるほど世界中で深刻な問題を抱えています。現在、窒素循環量が100年前の2倍になっており森や海などは栄養過多になっています。化学肥料や農薬を使用した土壌は硝酸態窒素を多く含み、腐敗しやすくなります。自然がメタボ化しているわけです。それに対し人間の手を加えていない土壌は人間に好影響をもたらす発酵型といえます。木村さんは家庭の生ごみから持続可能な発酵型の堆肥を作り出すCNBM技術をネパールで実践しています。

この技術ではC炭素、N窒素、B微生物、Mミネラルを配分して堆肥を発酵させます。CNBM技術によって作られた堆肥は化学的、物理的、生物的に大きな利点があります。化学的には、堆肥がマイナスの電気を帯びていることでプラスの窒素類が結合し、窒素が流れにくくなります。物理的とは、微生物が土の中の小さな粒子を粘着させてできる団粒構造ができることです。これにより排水性と保水性という相矛盾する2つの機能をバランスよく保ちます。そして最後の生物性というのは微生物の多様性です。放線菌が酵素を出し、悪い菌を食べてくれます。これらの働きにより土壌に含まれる水はきれいな状態に保たれます。野菜の85%は水分です。ですので、土壌の水がきれいかどうかで野菜の質も決まってきます。

ではどのように家庭の生ごみが環境にやさしい堆肥に生まれ変わるのでしょうか。まず、家で出た生ごみを各家庭に置かれた大きなごみ箱に入れます。そして、その上に床材をかぶせサンドイッチ状にします。床材は落ち葉やもみがら、米ぬか、赤土などからできており生ごみを腐敗させずに保つ役割を担います。これを1次処理といい家庭で行います。

1次処理で使うごみ箱と床材(8月8日、筆者撮影)

その後、1次処理が完了した各家庭の生ごみを街の作業場に集め、米ぬかと赤土を入れ2次処理が始まります。微生物の働きにより堆肥の温度は60度まで上がり、病原菌や害虫、雑草の種子は死滅します。処理期間中は、堆肥の色、におい、感触、水分量など日々の確認は欠かせません。

2次処理が始まり初めの2週間は堆肥の水分量や温度の調整のため週に一度に「切り返し」という作業を行います。筆者は首都の隣のティミ市にある作業場で実際に体験してみました。まず、スコップで堆肥の山を崩し手前に移動させて、新たな山を作ります。移動を終えたらバケツ一杯分くらいの堆肥を取り出しサンプリングをします。水を加え堆肥をおにぎりのように握ります。季節によって異なりますが、夏の時期は水分量が60%以上だと崩れません。

「切り返し」の様子(8月9日、筆者撮影)

サンプルで水を測ったら堆肥の山にも水を加えます。そして元々置かれてあった場所に戻します。堆肥を移動する作業は重労働で、合間に休みを挟みながら3時間ほどかかりました。この切り返しは機械に任せられない繊細な作業であることを知り、人の手で行うことの重要さを実感しました。

堆肥に水を加える様子(8月9日、筆者撮影)

現在、CNBM技術を活用した生ごみの堆肥化は首都カトマンズ郊外のティミ市や世界遺産バクタプル市をはじめ6つの地域で取り入れられています。木村さんはネパールのごみ問題の解決方法として堆肥化を進めることにやりがいを感じています。すべてネパールにあるもので完結しており、生ごみが農業に還元されます。一石二鳥どころではないと話します。ジャムネという首都から車で4時間ほどのところに農業の見本となるようなアグリリゾートを作る計画を進めています。

バクタブル市の作業場(8月8日、筆者撮影)

日本とネパールにおいてのごみ問題の意識の違いについて、木村さんは「あまり感じない」といいます。どちらの国も現状のごみ処理方法が持続可能とはいえません。ただ、ネパールは日本と違いごみ処理のシステムは長らく手付かずだったので、新しい技術を導入できる余地があると話します。

筆者たち学生には日本の良さをもっと自覚してほしいと話します。ネパールは毎日安定して水が来るわけではありませんし、すべての家でお湯が出るとも限りません。治安は不安定で、腐敗した警察。そのような環境では生きるためにお金を稼ぐことに精一杯で、夢や希望を持つことは難しいことでしょう。それに対し日本は安全で教育機関、インフラが整っており、都内で財布を落としても持ち主に戻ってくるというような、先人から引き継がれた「道の文化」も心に備わっています。

環境も心も優れている日本だからこそ新しい一歩上の循環社会を作っていけると木村さんは期待しています。筆者はネパールを訪れたことで、日本であたりまえのように使っていた水や電気の大切さを感じました。ごみ問題を含む持続可能な環境システムが日本で実現されるように自然に目を向けることが重要だと感じました。

 

 

参考資料:

農林水産省「農業技術の匠:橋本力男さん」(https://www.maff.go.jp/j/seisan/gizyutu/hukyu/h_takumi/pdf/mie.pdf)