「違憲」判決の旧優生保護法 平成まで続いた強制不妊手術と除斥期間

「旧優生保護法」下で不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、被害者らが国に損害賠償を求めた訴訟で最高裁大法廷は3日、旧法は違憲と判断し、国に賠償を命じました。強制不妊手術被害者とその家族への、迅速な救済が求められています。

 

◾️旧優生保護法とは

旧優生保護法は1948年に議員立法で成立し、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的としていました。特定の疾病や障害のある人を対象に不妊手術を受けさせ、同じ障害などを持つ子孫が出生することを防ごうとしたのです。戦後の食糧不足への危機感も背景にあります。

母体保護法に改正され手術に関する規定がなくなった96年まで、不妊手術は続きました。48年間で約2万5千人が手術を受け、うち約1万6千人は本人の同意を得ていませんでした。

2018年に宮城県の女性が国に損害賠償を求めて仙台地裁に訴訟を提起したのを皮切りに、全国各地で被害者らが立ち上がり、問題が表面化しました。

 

◾️最高裁判決の要旨

今回の司法判断の注目点は、大きく3つあります。

・旧法の規定が憲法13条、14条1項に違反する

・旧法の立法自体が違法で、国には損害賠償責任がある

・「除斥期間」は無条件で適用されるものではない

判決は旧法について「障害者を差別的に扱い、不妊手術によって生殖能力の喪失という重大な犠牲を強いた」として、個人の尊厳や人格の尊重をうたう憲法13条と、法の下の平等を定めた憲法14条1項に反すると判断しました。

また「障害者の出生を防止するという目的は、当時の社会状況を勘案しても正当とはいえない」と指摘し、違憲性が明白な旧法を成立させ、国家政策として不妊手術を積極的に推進してきたことなども踏まえ、国の責任を強調しました。

除斥期間の適用については、各地の高裁で判断が大きく分かれており、上告審で最大の焦点となっていました。

※除斥期間とは
民法旧724条後段「不法行為から20年を経過した時は損害賠償請求権が消滅する」との規定について、最高裁が1989年「除斥期間」と判示し、判例として定着した。
2020年施行の改正民法で、事情によっては請求権が残る「時効」に統一された。 今なお続く水俣病訴訟の争点でもある。

 

原告側は、不妊手術の強制は人権侵害だと強調し「20年経過しただけで国を免責するのは著しく正義・公平の理念に反する」と訴えました。これに対して国側は、除斥期間の例外を広く認めることへの懸念を示し、原告らの請求権はすでに消滅していると主張しました。最高裁大法廷は、原告側の主張に寄り添いました。除斥期間について「著しく正義・公平の理念に反し、容認できない場合は適用されない」との初めての判断を示したのです。

 

◾️これから

旧優生保護法をめぐっては18年以降、全国12の地裁・地裁支部で39人が訴訟を起こしました。他の訴訟でも、今回の司法判断が踏襲されるとみられています。違憲判決や除斥期間の不適用、国への賠償命令など、強制不妊手術の被害者にとっては大きな成果だと言えるでしょう。しかし、司法判断だけでは直接的な救済になりません。補償の対象や補償額など、議論の余地も残っています。また、被害者らは高齢であり、補償と解決へのタイムリミットは迫っています。早期解決に向けた、行政と立法の積極的関与が求められています。

 

2年生の前期が終了し、法学部に所属する筆者は本格的に法律に触れることが増えました。そして、以前よりも法律が好きになり、学ぶことに楽しみを感じるようになりました。だからこそ「自由」と「平等」を唱えた日本国憲法施行の1年後に、人権侵害も甚だしい旧優生保護法が成立したことに、驚きと落胆を感じます。

「すべて国民は、個人として尊重される」

「すべて国民は、法の下に平等であって(略)差別されない」

これらの基本理念がありながら、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的とする旧法を施行したのは言語両断です。そもそも、なぜこのような法律が生まれたのか、という疑問も生じます。

法律には強制力があり、使い方を間違えると人権を侵害してしまうこともあります。新たな被害者を生まないために、すでにいる被害者を救うために、法律を学んでいきたいと強く心に決めました。

 

参考文献

・7月30日付 日経電子版 「障害者差別、根絶へ行動計画 首相主導で初の全閣僚会議」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA254MY0V20C24A7000000/

・7月30日付 朝日新聞デジタル 「障害者差別根絶へ推進本部 政府、年末めどに行動計画」https://www.asahi.com/articles/DA3S15997477.html

・7月25日付 読売新聞オンライン 「旧優生保護法 被害者補償へ初会合 対象や額が焦点に 超党派PT」https://www.yomiuri.co.jp/shimen/20240724-OYT9T50287/

・7月4日付 読売新聞オンライン 「旧優生保護法 最高裁判決の要旨」https://www.yomiuri.co.jp/national/20240703-OYT1T50188/

・7月4日付 日経電子版 「旧優生保護法は「違憲」 最高裁大法廷、国に賠償命令」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE255OB0V20C24A6000000/

・7月3日付 読売新聞オンライン 「旧優生保護法「違憲」、強制不妊で国に賠償命令…最高裁が「除斥期間」不適用で統一判断」https://www.yomiuri.co.jp/national/20240703-OYT1T50180/

・7月3日付 読売新聞オンライン 「旧優生保護法は「違憲」、強制不妊訴訟で最高裁大法廷が国側に賠償命じる…除斥期間認めず」https://www.yomiuri.co.jp/national/20240703-OYT1T50104/

・6月29日付 日経電子版 「平成まで続いた強制不妊 優生保護法はなぜ生まれたか」https://www.nikkei.com/telling/DGXZTS00011140W4A620C2000000

 

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