出入国在留管理庁(入管)の発表によると、令和5年6月末の在留外国人数は約322万人と、前年末比で約15万人の増加となっています。今後、ますます日本に住む外国人は増えていくと予想されています。
同じコミュニティで暮らす人々が育った社会背景が多様化していく中で、私たちに求められる姿勢とは一体どのようなものなのでしょうか。外国人との向き合い方を教わるべく、多様な国籍の人々が集まる京都インターナショナルスクール(以下KIS)の職員の方に取材しました。
本記事では、取材内容をもとに前編として、①KISについて、②国際バカロレア(以下IB)について、③KISで行っているIB教育について、述べていきたいと思います。後編では、IB教育における教員の在り方、IB教育の抱える課題、変化する日本で生きる私たちに求められる姿勢について、筆者の考えと共にお伝えしたいと思っています。
▪️KISについて
KISは京都市内唯一の初等部(PYP)、中等部(MYP)のIB認可校です。日本国内のIB認可校は241校(令和6年3月31日時点)あり、京都府には4校があります。
KISでは、「アクティブ・ラーニングを促し、国際的人材を育てる」ことを目標に掲げます。そのうえで、他者と協力的で広い視野と国際感覚をもった個性を生かし、世界人類に役立つ人物の教育を目指しているとのことです。
生徒数は約130名で、4歳〜15歳の外国籍の子ども、国際結婚などにより二重国籍の子ども、日本国籍の子どもで構成されています。出身国については、中国、アメリカ、ヨーロッパなど多岐にわたります。仕事や研究のために日本で暮らすことになった家族、紛争や戦争地域から逃れ、難民認定を受けた家族、日本の文化が好きで暮らし始めた家族など、日本にやって来た経緯は様々だそうです。
職員数は約25名で、通常の授業は主に外国人の先生が担当しています。また、日本語の教育は日本人の先生が担当しています。
▪️IBについて
IBとは、ジュネーブに本部を置く、国際的な教育プログラムを提供する組織のことで、
・PYP(3〜12歳):精神と身体を発達させることを重視したプログラム
・MYP(11〜16歳):これまでの学習と社会とのつながりを学ばせるプログラム
・DP(16〜19歳): 所定のカリキュラムを2年間履修し、最終試験を経て所定の成績を収めることで、国際的に認められる大学入学資格(国際バカロレア資格)が取得可能なプログラム
・IBCP(16〜19歳): 生涯のキャリア形成に役立つスキルの習得を重視したキャリア教育・職業教育に関連したプログラム(アートや演劇、スポーツなど専門性の高い進路を希望する生徒向け)
という4つの段階があります。
中でも、DPを通じて取得できる国際バカロレア資格では、日本の学校(IB認可校)に通いながらも、海外の大学進学ルートを確保できる点に非常に魅力を感じました。
▪️KISで行っている教育について
次に、授業内容です。基本的に英語で進められており、生徒同士や先生と生徒たちのコミュニケーションも英語でした。ただ、KISでは英語教育だけではなく、母国語やルーツも大切にし、目の前の生徒がどういう人物であるのかを考えながら、教育しているそうです。また、日本語の授業も行っているため、日本で暮らすための語学力を培うこともできます。
筆者が非常に印象的に感じたのは、IB教育の基本方針に則ったKISの授業スタイルです。
教室を見学させていただくと、日本の学校のように黒板に向かって整然と並んでいる座席ではなく、グループごとに分かれてテーブルと椅子やソファが置かれていました。また、ボードゲームや玩具も置かれており、子どもたちが伸び伸びと遊べる環境づくりがされていると感じました。
・テキストを使わない授業
KISでは、ユニットという約1ヶ月半単位の学習テーマを設定し、そのテーマに対して英、国、数、社、理という様々なアプローチで学ぶという教育スタイルを取り入れています。
例えば、テーマが「水」であった場合、水不足やSDGsといった社会問題からアプローチすることで社会科目として学習します。一方、「水を100gのうち30g使うと残りの量は」といった算数からのアプローチもあるなど、1つのテーマに対して各教科が異なる角度で学習を進めていくそうです。
この教育により、教科書ベースの詰め込み学習ではなく、学びと社会を関連づける力、ある事象に対して多面的、立体的に考える力を育むことができていると感じました。この、テキストを使わない、宿題が出ない授業スタイルは日本の教育を受けてきた筆者にとっては、非常にワクワクしました。
LGBTQなど、一人一人の個性を受け止める組織風土、様々な形の学習に対して自主性を重んじるKISの姿勢に感動しました。自分が受けて来た日本の教育と異なる点が多く、非常に魅力的で、個々の可能性を最大限に伸ばすことができる理想的な教育環境だと感じました。
また、2〜3年で他国に移住する家族も多いようで、仲の良い友人との別れが多いのもK I Sの特徴です。しかし、長期休みに離れた友人に会いに行く生徒、国境を超えて交際を続ける生徒もいるそうで、そういった生徒同士の繋がりにも個性が溢れていて面白いと感じるそうです。
後編では、IB教育における教員の在り方、IB教育の抱える課題、変化する日本で生きる私たちに求められる姿勢について述べていきたいと思います。
【参考文献】
・文部科学省 IB教育推進コンソーシアムIB(国際バカロレア)とは・
・ONE WORLD INTERNATIONAL SCHOOL 国際バカロレア(IB)とは?概要・プログラムやメリットなどを解説
【参考記事】
・朝日新聞デジタル 2024/6/19付「子どもが主体。先生は補助役」 廃校跡地、インター校での学びとは
京都インターナショナルスクールHP:https://www.kis.ac.jp