新型コロナウイルス感染症が5類に移行して1年以上が経ち、街中でも流行前と同水準、あるいはそれ以上に外国人観光客を見かけるようになりました。
インバウンド増は消費の拡大などで経済にプラスに働く一方、観光地の受容能力を超えて集まればオーバーツーリズムを引き起こしかねません。
観光客の呼び込みと行き過ぎの防止。その両立は観光立国の推進に不可欠であり、各地でさまざまな取り組みが始まっています。
◯1〜6月の訪日客、過去最高
19日、日本政府観光局(JNTO)は24年6月の訪日外客数の推計値を公表しました。
発表によると先月の訪日客は約314万人で、単月として過去最高を記録しました。1〜6月の累計も、19年同期を100万人以上上回る約1778万人で、過去最高を更新しました。
この勢いが続けば、19年の約3200万人を超え、通年でも過去最高となることが予想されます。
◯記録的な円安
訪日客による消費も伸びています。
観光庁によると、4〜6月の訪日外国人旅行消費額は過去最高の2兆1370億円でした。19年同期に比べ68.6%増加しています。
外国人向けの強気の価格設定も多くみられるようになり、北海道ニセコエリアの「バブル」現象や「インバウン丼」などが注目を集めました。
インバウンド消費増加の背景の一つには、記録的な円安があります。
今年、1ドル=140円台で始まった円相場は激しい値動きを見せ、一時1ドル=160円台まで円安が進行しました。1ドル=110円前後で推移した19年と比べると、その差は一目瞭然です。
ニセコのキッチンカーで売られていた4000円のカレーも、1ドル=100円ならば40ドルもしますが、1ドル=160円だと25ドルになり、外国人にとって非常に割安に感じられます。
◯オーバーツーリズム
観光客の急増は、公共交通機関の混雑やマナーの問題など、地域社会や住民の負担にもつながります。
政府が目指すサステナブル・ツーリズム(持続可能な観光)の実現には、オーバーツーリズムの解消が不可欠です。
全国各地で対策が進められています。
北海道は宿泊税を導入する意向で、26年4月の開始を目指しています。税収は交通手段の整備など、観光客の利便性向上に使われるといいます。
道内の観光地は駅からの距離が遠い場所が多い一方、交通機関が発達していないケースが多々あります。2時間に1本のバスや、いつ来るかわからないタクシーしか移動手段がないということも珍しくありません。筆者自身、ニセコや歌志内に取材にいった際は、足の便の悪さに苦しめられました。
移動手段の拡充は、訪日客のマイナーな観光地への分散にもつながり、オーバーツーリズムの解消に寄与することが期待されます。
課題が山積する観光政策。目先の訪日客数に一喜一憂するのではなく、将来を見据え、全てのステークホルダーに配慮した、持続可能な観光の実現が求められています。
参考記事:
日経電子版「訪日客、1~6月最高の1778万人 持続性占う混雑対策」(2024年7月19日)
日経電子版「北海道、宿泊税の導入表明 二次交通や体験型観光拡充」(2024年7月3日)
参考資料: