亡くなった人を動画でよみがえらせる。中国のネット通販サイト淘宝網(タオバオ)では、そんなビジネスが始まっています。生成AIを用いて、死者が生きているかのような動画を作成し、有料で提供するこの商法。故人が写っている数十秒の動画を送ることで、AIが顔や姿を自動認識し、死者を再現しています。読売新聞によると、動画は1週間程度で作られ、費用は4000元(約8万8000円)ほどだそうです。サイトの代表である張沢偉(ジャン・ズォーウェイ)氏は、「たとえデジタルの命であっても人の痛みを癒すことができる」と話しています。
しかし死者を復活させるビジネスは、良いことばかりではありません。芸能人や著名人の画像を無断で動画に使用する人がいるからです。中国では、今年亡くなった歌手「ココ・リー」さんが生きているかのような動画をSNSに公開し、シリーズ化して収益を得た事例がありました。多くの人々に慕われた故人を、ビジネスに利用して良いものか、中国では賛否両論の声が上がっているそうです。
筆者はTikTokでも、同様の動画を見かけました。現代の人ではありませんが、明治や昭和時代に撮られたモノクロ写真をカラー化し、人々が動いている様子が短い動画に収められていました。人物だけでなく、木の葉が揺れていたり、雲が少しずつ動いていたりと、当時の風景にまでAIの技術が施されていました。
写真に写っている人の家族や友人がこの動画を見たら、当時を思い出して感動するだろうなと思います。また、人を癒す趣旨とは少し外れますが、AIに戦争や歴史的事件を学習させて動画にすることで、それらの出来事を知らない世代も視覚的に「人の痛み」を感じることができます。歴史の教科書を読むだけでは想像しづらかった出来事も、当時の様子を理解することができます。負の歴史を繰り返さないためには何ができるか、そうした問題を考えるきっかけにもなるのではないでしょうか。
こうして見ると、生成AIを使って故人を復活させることは、一長一短であると言えます。ただ、筆者も抵抗があります。もし自分の大切な人が動画にされ、知らない人々の目に晒され、誰かが動画に共感した人からお金を巻き上げていると考えると、恐ろしい気持ちになります。故人の気持ちを推しはかれば、自分の知らないところでAIが作った動画からお金が発生していると思うと、気分が良いものではないでしょう。技術の進歩とともに始まったこのビジネス。果たして拡大する余地はあるのか、今後の動きを注視していきたいと思います。
参考記事:
7月10日付(14版)1面 読売新聞「死者を復活」急拡大…生成AIで肖像権侵害、中国が野放し