認知症500万人の時代に向けて 「知る」

皆さんの周りに認知症の方はいますか。厚生労働省によると、2022年時点で全国に443万人、40年には584万人と高齢者の約15%を占めると予測されています。

筆者の80歳になる祖父も短期記憶が弱くなっており、認知症の疑いがあるといいます。先日家に訪れた際も、3姉妹の名前を教えてもすぐに忘れてしまう、物の置き場所が分からずトイレに放置してしまうという様子が見受けられました。一方で、高校時代や働いていたころの話はしっかりと覚えていました。

認知症の症状はさまざまですが、大きく分類すると「中核症状」と「行動・心理症状(BSPD)」の2つに分けられます。

中核症状とは、一般的に認知症の方なら誰でも現れる症状のことです。ついさっき起きたことが思い出せない、知っている人の名前が出てこないというような記憶障害や、物事を計画的に考えて効率的に実行できなくなる実行機能障害などが挙げられます。

これらの中核症状は、薬の服用や生活環境、周りの人の対応によって進行を遅らせることはできます。ただ、大脳皮質の破壊により発症するため、完全に治すことはできない進行性の症状です。

一方で、「行動・心理症状(BSPD)」は生活環境、心理状態が大きな影響を与えます。これらは中核症状によって引き起こされた二次的なもので、進行性の中核症状とは異なり、周りの人が正しく理解したうえで、環境を整えてあげたり、リハビリをしたりすることで改善するといいます。

代表的な例でいうと、「徘徊」や「物盗られ妄想」が挙げられます。「物盗られ妄想」とは、記憶障害により「盗まれた」と思い込み、「お前が盗んだんだ」と周りの人を疑ってしまう症状です。

筆者のアルバイト先の介護施設でも、毎日のように「泥棒が部屋に入ってきて指輪を盗まれた」と言う入居者の方がいました。最初は正直どう対処して良いか悩みました。しかし,繰り返し関わるうちに、本人を安心させることが重要だとわかりました。決して泥棒はいないと否定せず、地元や子ども時代の話を聞いて注意をそらす、警備員に伝えておくと話す、といった対応することで安心した表情になっていました。否定をせずに、いったん受け止めてあげることが重要です。周囲の人との関わり方によって過ごしやすさが変わってくる症状といえるでしょう。

日本経済新聞によると、国が養成している「認知症サポーター」というものがあります。認知症に関する基礎知識や患者への対応の方法などについて講習を受けることで、誰でもサポーターになることができ、24年3月末時点で1535万人もいるといいます。

この記事を読むまで忘れていましたが、筆者も中学生のときに授業の一環で受けています。当時講習を受けた後に、「オレンジリング」という認知症サポーターの証を貰いました(21年4月以降は、原則として認知症サポーターカードが渡されます)。

認知症が身近な存在でなくても、今のうちに知識を身につけておくことは将来必ず役立つでしょう。この病気を「知る」ことは、私たち一人ひとりができる第一歩です。まずは認知症について知ることから始めてみませんか。

 

参考記事:

6日付 日本経済新聞「認知症500万人へ備えは? 正しく理解し周囲が支援」

9日付 朝日新聞 朝刊(大阪13版) 11面 「(メディア空間考)新しい認知症観へ 『お困りごとは?』とらわれてないか」

 

参考資料:

認知症サポーターキャラバン「認知症サポーターキャラバンとは」

認知症ねっと 「認知症の中核症状と行動・心理症状(BPSD/周辺症状)