集約で地域を維持する「コンパクトシティ」とは?

民間の有識者らで構成する「人口戦略会議」は今年4月、自治体の持続可能性に関する報告書をまとめました。同会議は国立社会保障・人口問題研究所の地域別の将来推計人口をもとに、自治体ごとの20歳から39歳の若年女性の人口動向を調べました。そして、2020年からの30年間で50%以上減る地域を「消滅可能性自治体」と名付けました。女性が大幅に減少すれば、出生率が少々上向いても地域の人口はどんどん減り、いずれ消滅しかねないためです。

「地域が消える」と聞くと、大げさに聞こえるかもしれません。ただ、多くの地方都市が危機に晒されていることは事実です。各自治体が子供を育てやすい環境づくりに励んでいますが、目立った効果は見られません。今後は規模の維持というよりも、いかに都市機能を守るのかが重要になるかもしれません。

都市機能の集約を目指す取り組み「コンパクトシティ」は全国各地で進められています。郊外化などで分散した生活機能を特定の地区に集めることで、人が少なくなっても十分な生活圏を確保する施策です。いわゆる「消滅可能性自治体」ではありませんが、国内では富山市が先進的で、05年頃から本格始動しています。都市機能がまとまることで誰もが暮らしやすい街づくりを目指しています。

市は以前から車を使えない人にとって極めて生活しづらい街でした。県単位ではありますが、一世帯当たりの自動車普及台数は全国2位で、移動手段として自動車への依存率が高いことがわかります。一方で市の調査では、車を自由に使えない人(無免許や免許はあるが自由に使える車を持たない層)が約3割もいます。女性の割合が高く、年齢別では高齢者の比率が大きくなっています。30年には高齢者増加の影響で、車を自由に使えない人が05年の1.2倍まで増加することが見込まれています。

06年に実施した公共交通に関する市民の意識調査を見ると、公共交通の利便性が高い中心部や、コミュニティバスのある郊外地域では、「移動に困ることがある」と回答した人の割合が低くなっています。一方で、移動に困ることがあると回答した人にその理由を聞くと、運行本数の少なさや割高な運賃などのサービス面、乗換の多さや駅やバス停までの距離などの利便性の問題が指摘されています。

富山市が行った、国勢調査に基づいた1970年と2000年の人口分布の比較調査によると、中心市街地と中山間地域で人口減少が進んでいました。平坦で広大な富山平野の中央部に位置していることから、宅地開発が容易です。人口が地価の安い郊外へ流出し、商業・福祉などの都市機能や住宅地が無秩序に広がる「スプロール現象」が発生していたのです。市街地が拡大すると、新たな道路・下水道・公園などの整備や、除雪・道路清掃・ごみ収集などの行政サービスが必要になり、自治体運営のコストの上昇に繋がります。生産年齢人口の割合の減少と共に税収が減ることが予測されているため、コストカットは避けられません。

市が目指しているコンパクトシティは、「串とお団子」と呼ばれる都市構造で成り立っています。「お団子」は徒歩で移動でき、日常生活に支障がない機能がそろったエリア、そんなエリアを「串」となる一定水準以上の交通インフラでつなぐというのです。都市計画は、①公共交通の活性化、②公共交通沿線地区への居住推進、③地域拠点の活性化という三本柱で進められています。

高齢者の多くは買い物弱者及び交通弱者になる恐れがあります。それだけに徒歩圏内で必要なものが手に入る環境は、暮らしやすさに直結します。また、強制的な移住ではなく、誘導によって集約を目指しているため、郊外や山間地域での暮らしも選択肢として残されています。

イメージ図:スマートシティとやま(富山市企画管理部スマートシティ推進課)https://www.city.toyama.toyama.jp/etc/smartcity/index.html

公共交通の活性化の面では、「串とお団子」の「串」であるLRT(次世代路面電車)を整備しました。路線の一部は以前、JR富山港線として運行されていましたが、利用の低迷が続いていました。そこで、運行コストの少ないLRTへの転換が決まりました。

昼間の時間帯は60~100分に1本だった運行本数を15分間隔に増便。朝夕のラッシュ時は10分刻みのダイヤ編成に。終電は21時台から23時台まで遅らせ、駅や停留所が5か所新設されるなど、利用しやすい環境が整備されました。LRTは乗車の時の段差が低いため、誰もが安全に利用できることも利点です。

筆者撮影:LRTの車両・段差が無いため高齢者の利用も容易(2024年6月12日)

実際に乗ってみると、LRT化に伴い開業した粟島駅はスーパーマーケットの「大阪屋ショップ粟島店」と隣接していました。生活に必要な拠点が公共交通の周辺に集中すれば、車椅子の利用者やお年寄りなど長距離移動が難しい人々も快適な生活を送ることに繋がります。

筆者撮影:大阪屋ショップ粟島店側から見える粟島駅入口(2024年6月12日)

筆者撮影:大阪屋ショップの存在を明示する駅看板(ネーミングライツ)(2024年6月12日)

また、中心市街地にあった路面電車は、環状線として延伸して開業しました。富山駅の南北で分けられていた路面電車は直結され、利便性を上げました。結果として、開業後の平均利用者数(1日当たり・19年度)は、開業前の05年と比較して、平日で約2倍、休日は3倍になりました。

次に、「お団子」部分への居住推進策として、市は個人や事業者に向けて、沿線や中心部での住宅建設や購入・リフォームなどに対する資金面での居住支援を進めました。

例えば、05年から始まった「まちなか居住推進事業」では、富山駅や総曲輪周辺の都心地区(まちなか)で一定水準以上の住宅を取得し居住した場合、一戸につき50万円が交付されます。他にも、商業施設などが不足する「お団子」部分への機能誘導などが進んでいます。新規に出店する事業者に施設整備費の一部を支援する「富山市都市機能立地促進事業補助金制度」も創設されています。商業機能が不足する市内の細入地域では、コンビニの新規開業に向けた施設整備費の2分の1にあたる2000万円が交付された事例もあります。

富山市も全体の人口は減少しているものの、居住誘導区域の人口は増加しています。ただ、課題も残っています。居住人口を誘導区域内で増加させることに成功していますが、商業機能に焦点を当てると、集積しているとは言えない状況です。「富山市中心市街地活性化基本計画」(22年)によると、中心商業地区の主要商店街(協同組合総曲輪通り商盛会・協同組合中央通商栄会・西町商店街振興組合)の会員数は減少傾向が続きます。12年に177人いた会員は、10年後には133人と25%ほど減りました。中心商店街の空き店舗数は10年間、60店舗前後で推移し、大きな変化はありません。

筆者撮影:富山市中心部・総曲輪の様子(2024年6月13日)

一方、郊外の大型商業施設「フューチャーシティ・ファボーレ」は19年に大幅増床しました。加えて、商業施設などがある区域外の一部でも人口が増えているところがありました。商業機能が郊外に残る状況が続く現状は、コンパクトシティが抱える課題を示しています。

筆者撮影:中心部・総曲輪で目立つ空きテナント(2024年6月13日)

課題は公共交通機関の維持にも見られます。LRTやバスなど市内沿線の公共交通を担う富山地方鉄道は、5月末に昨年度の決算を発表しましたが、5期連続の営業赤字でした。コロナ禍後の客足の回復が遅れていることに加え、運転手の大幅な不足によって高速バス、貸切バスの運用を制限せざるを得なかったことが原因です。公的な補助を受けているため、最終段階では黒字を確保しましたが、運転手不足は慢性的に続いています。新規採用した運転手への支度金を30万円から100万円に引き上げるなどの対策が取られていますが、効果は未知数です。

広がりすぎた都市機能を集約し、避けられない人口減少に対応する取り組みは世界規模で進んでいます。ドイツなどでは郊外の大規模出店に厳しい規制が設けられるなど、海外では強力な法整備が進んでいる例もあります。国内外の事例から学び、地域の住民が納得する都市計画を新たに練り上げる時期が目前に迫っています。

 

参考記事

都市住宅政策、都市計画は人口減少を前提に 浅見泰司氏 東京大学教授 – 日本経済新聞 (nikkei.com)(2024年7月2日)

「コンパクトシティー」推進10年、見えぬ効果…郊外住民「中心部に住むメリット感じない」 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)(2024年4月30日)

【富山】富山―金沢の富山地方鉄道高速バス廃止へ 3月15日 運転手不足、利用者減で:地域ニュース : 読売新聞 (yomiuri.co.jp) (2024年2月10日)

橋なくなる現実、受け入れられるか 縮小する社会で求められる合意は:朝日新聞デジタル (asahi.com) (2024年1月10日)

富山市「歩ける街」へデータ活用 600メートルに壁 – 日本経済新聞 (nikkei.com)(2023年11月21日)

LRT転換で乗客2~3倍 富山のローカル線の教訓 – 日本経済新聞 (nikkei.com)(2022年8月10日)

ローカル線LRT化、富山の教訓 市全体に路線整備の恩恵 森前市長に聞く 国関与「今が好機」 – 日本経済新聞 (nikkei.com)((2022年8月11日)

 

参考資料

富山市「富山市都市整備事業の概要(全編)」

https://www.city.toyama.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/006/102/2023_toshigaiyo.pdf (2023年)

富山市「富山市中心市街地活性化基本計画」(2022年4月)

【期間限定】入社支度金を大幅に増額します!! | 富山地方鉄道株式会社 (chitetsu.co.jp)