今年は、多くの国と地域で大統領選や議会選などの重要な選挙が行われる世界的な「選挙イヤー」です。
今月上旬にはインド総選挙の開票や欧州議会選挙が行われ、7月にはイギリス下院の総選挙が、11月には世界中が注目するアメリカ大統領選挙が控えています。
選挙は国民が主権を行使する最大の機会であると言え、民主主義国家では個々の有権者の意思決定が国の行く末を左右してきました。
ただ、今年は「民主主義の力強さを示す年」とはならないかもしれません。
◯躍進続く極右
世界中を席巻するポピュリズム。その勢力は欧州連合(EU)の立法機関である欧州議会においても着実に広まりつつあります。
今月6日から9日にかけて、5年に1度の欧州議会選の投開票が行われ、EUに懐疑的な極右や右派が2割超の議席を獲得しました。
近年、EU懐疑派は徐々に地盤を拡大しつつありましたが、今回の結果はEUの政策に批判的な市民の多さを改めて印象づける形となりました。
欧州の統合を象徴する立法機関で構成員の多くを懐疑的な議員が占めるという、歪な状態になっています。
積極的な環境政策や人権の尊重などリベラルな政策を推進してきたEUですが、極右のさらなる台頭は従来の政策推進に影を落としかねません。
◯深まる社会の分断
近年、選挙は社会の分断を際立たせる場と化しているように感じます。
アメリカのトランプ前大統領は、反対派への痛烈な批判を展開し、岩盤支持層を作り上げることで16年の米大統領選を制しました。
対立を煽って支持基盤を固める手法はポピュリスト政治家がよく用いるものですが、その効果は対立構造がわかりやすい「選挙」という場において増長され、分断がより顕著に現れているように思われます。
◯つけ入る強権国家
欧米諸国の政治的混乱を横目に、強権的な国家は虎視眈々と影響力の拡大を狙っています。
今月19日、ロシアのプーチン大統領は北朝鮮の平壌を訪問しました。金正恩朝鮮労働党総書記と首脳会談を行い、有事の相互支援条項などを盛り込んだ「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結しました。
台湾統一を目指す中国も、先月下旬に台湾を包囲する形で軍事演習を行うなど、挑発的な行動を繰り返しています。
政治的な分断は、内向きの政治を助長しかねません。国際秩序の維持のためにも、民主主義国家の政治家には分断を早期に修復し、強権主義を牽制することが求められます。
混乱を極める中での「選挙イヤー」。
民主主義の理念を掲げてきた政治の真価が問われています。
参考記事:
6月20日付 読売新聞朝刊1面「露朝、有事に相互支援 第三国から攻撃時 包括条約締結 首脳会談」
6月20日付 読売新聞朝刊2面「政府 北の核開発警戒 露朝首脳会談」
日経電子版「変質する民主主義の警鐘 日本も米欧を笑えない」(2024年6月16日)
日経電子版「欧州議会選で極右伸長 識者の見方」(2024年6月10日)