福岡・朝倉の魅力を全国へ フリーペーパーが切り開く「町おこし」の可能性

東京・日本橋で福岡県の朝倉地域の食・雑貨・陶器などを集めた物産展「THE ASAKURA NOTE DEPARTMENT」が開催されています。朝倉は県中南部に位置する自然豊かな地域で、筆者の故郷でもあります。地元の魅力がどのように発信されているのかを知るため、先日、イベントの様子を拝見させていただきました。そこには、約350年の歴史を持つ小石原焼や老舗菓子店の看板商品など、筆者が以前から知っていた名産品だけでなく、地元産の黒糖を使ったラム酒や「甘木絞」という絞り染めの技術を使ったTシャツなど、あまり知られていない工芸品も並んでいました。

筆者撮影:「THE ASAKURA NOTE DEPARTMENT」の会場(2024年6月11日)

写真:「甘木絞」のTシャツ(2024年6月11日)

筆者撮影:朝倉市の人気菓子店「ハトマメ屋」の菓子も並ぶ(2024年6月11日)

幅広いジャンルの名産品を集めてイベントを開いたのは、地元のフリーペーパー「アサクラノート」です。朝倉で育まれている伝統や技術、人や文化など多岐にわたる話題を掲載しています。2022年の創刊で、3000部が朝倉市周辺の駅や商業施設で配布されています。先日、第6号が発行されました。写真を交えて、地域の魅力を紙面全体で表現したスタイリッシュなデザインには惹かれるものがあります。

発行しているのは、朝倉市の美容室「SEED hair design」の代表・山田謙一郎さん。美容室のオーナーとして働きながら、編集長も務めています。

「美容室って髪を切るだけではなく、情報交換や井戸端会議のような場所なんです」。発行のきっかけは、お客さんとの会話でした。「『朝倉ってイケてない』『完全にお年寄りの町』などの愚痴ばかり聞くことが多くて」。そこで、地元を盛り上げたいという思いを持つ方々と共同で、「アサクラノート」の前身となるフリーペーパー「アサクラリアル」の制作を始めたそうです。

その中で、朝倉の若者は成人になると、外に出ていく人が多いということ。それも「朝倉が嫌、退屈」というマイナスな要因で飛び出していく人が多いと知ったそうです。そこで、地域に住む若い人が希望を持てるようなメディアを作りたいと思い、伝統や技術、人や文化に焦点を当てた「アサクラノート」の制作に取り組むようになりました。

ただ、発行までには苦労も多かったそうです。一つは発行する勇気。出版経験が乏しい中、一人で始めた取り組みであり、限られたリソースで発行と配布を始めました。「出版に関わっている人から見たら『なんだこれ?』って感じだと思います。それでも恥を知らずに、勝手に作って、勝手にばら撒いた勇気が全てかなと思っています」

次に費用の問題。最初はデザインや文章を一人で作り、自費で発行していたそうです。ただ、継続的に活動するうえでネックとなったのが印刷代でした。幸いこの活動を見てくれていた地元印刷会社が印刷をサポートしてくれるようになり、資金面での苦労はなくなったそうです。

発行当初は、あまり反響を感じられなかったといいます。ただ、自治体の集まりに参加し、「アサクラノートというフリーペーパーを作っています」と自己紹介したところ、多くの出席者が知ってくれていたそうです。その後は協力者も増え、現在は担当を振り分けて制作を続けています。

「地元を盛り上げたい」という気持ちを持つ人は少なくありません。山田さんが勇気を振り絞って発行した「アサクラノート」は、そんな気持ちを持つ人々の力を集結させる旗振り役として、大きな役割を持ち始めたのです。

フリーペーパーの活動はイベントにも繋がりました。昨年は、朝倉市中心部から車で15分ほどの距離にある城下町、秋月で映画祭を開催したそうです。地域に残る蔵や屋敷などで上映会を開き、国内外から観客が訪れました。冒頭に取り上げた都内のイベントもその一つです。目的は「朝倉と東京を繋ぐ」こと。地場企業が東京でも販路を広げる手助けとして開催しているそうです。また、東京で朝倉について語り合うコミュニティができることへの面白さや楽しみも後押しになりました。また今後は、朝倉の伝統や工芸を味わう体験型ツアーも計画しているそうです。

少子高齢化や度重なる水害(2017年の九州北部豪雨等)など、朝倉地域には克服するべき課題が多く残っています。先日の帰省では、小さい頃に足を運んでいた市中心部のアーケード街が解体されていたことを知りました。屋根で覆われていた通りに、真上から日差しが照りつけている。そんな地元の風景に寂しさを感じたことを覚えています。

山田さんは「小さな国の人たちは自国語だけでなく、英語が話せたり、他国の歴史や文化などの情報も自然と取り入れたりしている。自国だけでは経済・市場が回らないので、観光と輸出に力を入れている。過疎化する地域の生きる道も同じで、まずはそこなのかなと思っています」と語り、地方が営みを持続するために進むべき方向を捉えています。

「だから、朝倉の情報ばかりではなく、隣町の情報も福岡市の情報も、そして今回のイベントで繋がった東京の情報も入れて、ゆくゆくは海外も。そこからコミュニティやビジネスを作って持続可能なメディアにしていきたい」。

山田さんが描くアサクラノートの未来は、地域が秘める潜在力とも一致しているように思えます。フリーペーパーが中心となり、朝倉と世界中の人を繋ぐ。メディアの役割は、単に情報を発信するだけでなく、地域と人々をつなぐ架け橋でもあるのかもしれません。

最新号を開くと、希望に満ちたメッセージが目に飛び込んできます。

「ここ、未来ありますよ、アサクラは」

町おこしの歴史に新たなページが刻まれようとしています。

 

筆者撮影:アサクラノート6号2024年6月11日)

 

イベント:【THE ASAKURA NOTE DEPARTMENT】-朝倉の今と未来-
日時:2024年6月7日(金)〜6月29日(土)・12:00-18:00(火〜土)
場所:TOIビル(東京都中央区日本橋横山町5-18)

アサクラノート(@ask.note) • Instagram写真と動画

 

参照記事

福岡県朝倉市秋月の城下町で国際映画祭…11月24日から、武士の館や蔵などで30作品:地域ニュース : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)