岸田政権は経済政策の柱にスタートアップ企業の育成を据えています。具体的な目標としてユニコーン企業(企業価値1000億円超の未上場企業)を将来的に100社まで増やすことを掲げ、一昨年5カ年計画を策定しました。
そんな中で、あるスタートアップ企業が日本最速でユニコーン企業へ成長したことが話題となりました。サカナAI社です。同社は、元グーグル社員のデビッド・ハ氏とライオン・ジョーンズ氏によって23年7月に創業され、一年も経たずに約1700億円の資金調達に成功しユニコーン企業の仲間入りを果たしました。
同社のAIの特徴は、従来モデルの考え方を覆していることです。これまで生成AIを開発するためには莫大な資金を投入し、高性能の半導体を用いながら大量の情報をインプットすることが必要でした。このような「大規模言語モデル」と呼ばれる開発手法は巨大企業にしかできず、参入障壁が高いとされてきました。
しかし、同社は小規模な会社の弱点を逆手に取り、小さなAIモデルを組み合わせることで能力を発揮する手法を開発しました。社名の通り魚の群れのように個々を効率的に結びつけることで、一つのAIとして機能させることができます。また、大量の電力を消費する「大規模言語モデル」と比較して省電力化も期待できるとのことです。
こうした方向性はNTTが進める「IOWN(アイオン)」構想と相性がよく、昨年11月には、サカナAI社とNTT社がこの研究分野で提携を発表しました。同構想は、電力消費量が増加し続ける通信インフラを、高品質でありながら低電力のインフラへと変えるものです。現在の通信システムで利用者が増加し続けると電力消費量が爆発的に膨らみ、地球環境の悪化へ繋がります。そうした観点から、省電力のAIや通信インフラが求められています。
すでに政府は、22年を「スタートアップ創出元年」とし、創業ブームを起こすとの考えを示しています。官民によるスタートアップ支援プログラム「J-Startup」を通じて支援を本格化させていますが、社会的課題を解決する様々なアイデアが出てくることを期待したいと思います。
参考文献
日経電子版2024年6月15日配信「サカナAI、国内最速ユニコーンに」