普及が進まない「マイナ保険証」 その背景は?

先月14日に厚生労働省は、マイナンバーカードに保険証の機能を載せた「マイナ保険証」の4月の利用率が6.56%だったと発表しました。前の月より約1ポイント上昇しただけです。カード自体の普及率が8割と高いものの、マイナ保険証としての利用は依然として進みません。なぜ低水準のままなのでしょうか。

国民の多くが、「マイナ保険証」の利用した際のトラブルを心配していることが背景にあります。昨年は、カードを利用してコンビニエンスストアで住民票を出そうとしたところ、別の人の住民情報が出てきたといった事例が相次いで報じられました。さらに、偽造カードをつかった手口が国内でたびたび確認されているとされ、地方議員も被害にあっています。偽造カードは容易に作れ、高値で売買されているといいます。この状況では、現行の保険証でいいという人も多いことでしょう。加えて、医療機関からも不安の声が上がっています。先月1日に茨城県保険医協会は、マイナ保険証に関するトラブルを医療機関に調査した結果を発表しました。昨年11月24日~今年1月10日まで332施設を対象に実施しましたが、回答を得たうちの約6割でトラブルが発生していたといいます。「旧字体が表示されない」や「他人の個人情報が紐づけされていた」など、個人情報に関する問題も含まれていたとのことです。

しかし、政府は普及率・利用率の向上に必死です。12月2日に従来の保険証を廃止する目標に向けて、厚労省は5月~7月を「マイナ保険証利用促進集中取組月間」として、助成金まで用意しました。マイナ保険証の利用者を増やした医療機関に対して最大で20万円を支給して、利用促進を図っています。加えて、多くの国民が利用する「iPhone」にもカードやマイナ保険証の機能を搭載し、利用者を増やす方向です。

国民が個人情報漏洩を問題視しているにもかかわらず、普及に懸命な政府はこうした問題を後回しにしているかのように見えます。普及率や利用率を上げるには、国民の懸念に真正面から向き合うことこそ欠かせません。カードの「安全性」を国民にしっかりと示したうえで、トラブルを未然に防ぐために再点検を進め、問題点を洗い出して修正する努力が、残りの約6ヶ月で求められているのではないでしょうか。

 

【参考記事】

9日付 日経新聞 (14版) 27面(社会)「揺れた天秤~法廷から~ 架空の妹演じ『24歳若返り』」

25日付 読売新聞オンライン「マイナカード偽造「1枚5分、技術や準備は不要」中国籍の女証言…本人確認に目視のみ多く悪用拡大」

31日付 読売新聞オンライン「マイナ保険証のスマホ搭載は来年春以降、現行の保険証は12月廃止…猶予期間終了で使用不可に」

【参考資料】

厚生労働省 保険局「マイナ保険証利用促進集中取組月間」と利用促進のためのツール・一時金について(最終閲覧日:24年6月9日)

厚生労働省 保険局「マイナ保険証の利用促進等について」(最終閲覧日:24年6月9日)

茨城県保険医協会 茨城県社会保障推進協議会「【調査2】『オンライン資格確認』『マイナ保険証』に伴う医療機関トラブル調査(第3報)」(最終閲覧日:24年6月9日)