「これ、さっき注文したのと違うので変えてください」
アルバイト先のカフェでよく言われることだ。私のカフェでは注文を受けて支払いをする前に必ず注文内容を確認する。稀に確認し忘れで起こりうる注文ミスもあるが、大抵の場合は、注文内容の確認の際にお客様が聞いていない、急に気分が変わったなどお客様都合の場合が多い。しかし、接客のマニュアルには、「どんな都合でも、まずは謝罪をしなさい」と書かれていて、謝罪をすることが必須になる。
私はこのマニュアルに書かれた対応が心底嫌いだ。もちろん、謝罪をしないわけではないが。どう考えてもこちらの店側のミスではないのに、なぜ謝らなければならないのだろうといつも疑問に思う。店長に一度このマニュアルについて説明を受けたこともあるが、「謝らないよりはお客さんは不快にならないから。面倒くさいのもあるし、一旦謝っといて」と軽く流されてしまった。意味のない謝罪なら、しなくてもいいのではないかと思ってしまうが、接客の基本なのであろう、「お客様を不快にさせない」という心構えの意味も含まれているのかもしれない。
最近、耳にすることの増えた、「カスハラ」と呼ばれる、カスタマーハラスメント。顧客による迷惑行為のことを指す。この「カスハラ」の被害が拡大していると話題だが、「お客様至上主義」のような接客は原因の一つとしてあり得るのではないかと思う。
以前、友人がコンビニの店員と仲良くなったから、とその店員がいるコンビニに一緒に行ったことがあった。友人と店員は、どこかの知り合いでもなく、たまたま友人が行く時にその店員がいることが多く、話すことが増えたのだという。友人は、店員に向かって「また来たよ!」と言い、店員も「今日はお酒飲む気分なの?」と会話を続けていた。仲の良さそうな会話に私自身はとてもほっこりしたし、なんだか嬉しくなった。その会話に敬語や客に対する気遣いのようなものはなく、もしかしたら普通の店に求められているような接客ではなかったかもしれない。でも、間違いなく私はその光景がどの店の接客よりも輝いて見えたし、見ていただけでも気持ちよかった。
恐らく、友人と仲が良い店員の接客とアルバイト先で求められる接客の大きな違いは、客と店員の関係性のあるのではないかと思う。後者はあまりにも客を神格化しているように思う。もちろん、自分たちの利益になる以上、お客様を大事にするのは当たり前だと思う。しかし、あまりにもお客様第一というか、自分を犠牲にしているところが多い気がする。お客様が言ったことには全部従ってしまいそうな勢いだと思うことが多くあり、その一つが先ほどの「どんな都合でも謝罪をしなければならない」というマニュアルだ。店員として働いている時間以外は客と変わらない人間なのに、店に入った瞬間、客よりも立場が低くなってしまうのも不思議な話だ。もう少し、店員としての立場や権利を店側も考えるべきだと思う。「店員と客」という以前にまずは、1人の人間として接しているということを忘れてはならない。
<参考記事>
6日付 日本経済新聞朝刊 「カスハラ被害 2人に1人 企業の4割未対策」