「改変を拒める権利」 すれ違いをなくすには

「同一性保持権」という権利をご存じでしょうか。

著作者人格権の一種で、著作物の内容やその題号(タイトル)の同一性を保ち、意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする著作者の権利のことです。例えば小説の一部を「無断で」削除したり、文章を書き換えて出版したりすることは同一性保持権の侵害であると言えます。

30日、映画の脚本を同意なく書き換えられたとして、原告の女性が共同脚本家に賠償を求めた訴訟の判決が言い渡されました。映画は2022年に公開された「天上の花」。俳優の東出昌大さんが詩人の三好達治を演じました。

この訴訟では、原告が「DV(家庭内暴力)を正当化」「登場人物の性格にニュアンスが付け加えられた」と指摘したのに対し、被告は「原告も同意のうえで修正した」と主張しました。つまり、脚本の変更をめぐる同意の有無が焦点になりました。結果的に、著作者が意に反する改変を拒める「同一性保持権」の侵害が認められることになりました。

脚本による改変が問題になった記憶に新しい出来事があります。今年1月に「セクシー田中さん」の原作者である芦原妃名子さんが、ドラマ制作でのトラブルをSNS上で公表し、亡くなりました。自殺の可能性が高いとみられています。筆者はこのドラマを毎回楽しみにしていました。亡くなる前のSNSでの騒動も目にしていたため、訃報を受けて非常にショックを受けたことを覚えています。

テレビドラマ化に際して芦原さんは、「必ず漫画に忠実に」「原作者が脚本を執筆する可能性もある」などといった条件を、原作を刊行した小学館を通じて示しました。しかし、日テレのスタッフは「原作を大事にする」という意識ではあったが、「ドラマ化の条件」とは認識していなかった。このことが双方の間に行き違いが生じた原因だといいます。

また、テレビ局側は脚本家と発注書を交わしていた一方で、放送時点では脚本家と原作者に対して契約書を結んでいませんでした。

この事件によって原作者や脚本家の権利、制作会社との間で生じる問題が浮き彫りにされました。ドラマ化や映画化にあたって、原作ファンは忠実に再現してほしいと思います。それと同時に、その作品をより多くの人に知ってもらう機会に繋がるとも受け止めています。

そのためにも、契約上の不備やすれ違いによる改変は事前に対策を講じて防がなければなりません。原作者や脚本家らの十分な意思疎通や、契約や同意書などを通じて制作過程を原作者らも知ることができる環境を確保することが求められています。

 

参考記事:

31日付 朝日新聞 朝刊 (東京14版))23面 (社会・総合)「映画脚本『改変を拒める権利』認定 大阪地裁、原告一部勝訴判決 『天上の花』訴訟」

30日付 朝日新聞 朝刊 (東京 14版) 24面 (社会)「脚本『手直し』許容の条件は 『共同脚本家』同意の有無で対立、きょう判決」

 

参考資料:

読売オンライン「日テレ、原作者急死の『セクシー田中さん』調査結果公表 『必ず漫画に忠実に』の認識に齟齬」

Japan knowledge Lib 「法律用語辞典 第5版 同一性保持権」