3人に1人。厚生労働省が公表した推計によると2060年には、前段階の症状も含め65歳以上の3人に1人が認知機能にかかわる症状を抱えることになるといいます。認知症の方とともに暮らす社会に向けて、一人一人が向き合わなければいけません。
これまで、「認知症になったら、人生を諦めなければいけない」、そんな絶望感があった。26日付の朝日新聞朝刊で、「認知症の人と家族の会」代表理事、鎌田松代さんはそう話します。しかし、認知症の人が尊厳を保って暮らせる社会を目指す認知症基本法が1月に施行され、風向きが変わるのではないかと期待を寄せています。「その人の力を生かしながら地域で生きていける」となれば大きな転換になると鎌田さんは言うのです。
しかし、社会の理解そのものはまだ移行期で十分ではないのが現状のようです。
皆さんは、認知症と聞くとどのようなイメージを持つでしょうか。記憶をなくしてしまう、そんな悲しいイメージが先行してしまう人も少なくないはずです。ですが、実際は悲しいことばかりが待ち受けているわけでは決してありません。認知症だからといって人生を諦める必要はないのです。大学の講義で出会った丹野智文さんがそう教えてくれました。
丹野さんは、38歳の若さで若年性アルツハイマー型認知症と診断されます。現在は、認知症の当事者の声を届ける講演活動や相談窓口の運営をされています。授業でのお話から、不安と戦いながら、認知症とともに生きるそんな姿にとても感銘を受けました。
「出来ないことを助けてもらいながら、出来ることを一緒にする。出来ないことを奪わないで待ってあげること」。丹野さんがおっしゃっていた忘れられない言葉です。物忘れが激しくなったり、判断力が衰えたり。認知機能が低下している当事者を前にして周囲の方が「あぶない」「代わりにやるから」と声をかける場面を目にしたことがあります。認知症になったからといって何も出来なくなるわけでは決してありません。周囲の人が出来ることまで奪ってしまう必要はないのです。
認知症の程度にも幅があるそうです。認知症の正しい理解が広がれば、と鎌田さんは望んでいます。認知症の前段階であると診断されても、運動や食事といった生活習慣の見直しなどの予防策によって健常な状態に戻る可能性もあります。
丹野さんの認知症とともに前向きに生きる姿は、これまで抱いていた暗く悲しいイメージを180度変えてくれました。3人に1人。多くの人が認知症とともに生きなければならない未来は、そう遠くありません。筆者と丹野さんとの出会いのように、認知症への正しい理解が広がることを願っています。
参考記事:
26日付 朝日新聞朝刊(大阪13版)25面(リライフ)「認知症 ともに暮らす社会に 厚労省推計「2060年、前段階も含め65歳以上の3人に1人」どう考える」
朝日新聞デジタル「丹野智文さん/認知症と診断されて 病との向き合い方を語る」
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