「日本版DBS」法案採決へ 進めていくべき、性暴力防止制度

子どもと接する職場で働く人の性犯罪歴を確認する制度「日本版DBS」の創設を盛りこんだ「こども性暴力防止法案」を審議してきた衆院の与野党は、22日に法案の採決を行うことで合意しました。今国会で成立すれば2026年度をめどに施行されます。

この制度が導入されると、大手指導塾や学校で相次ぐ子どもへの性暴力を防ぐことができるかもしれません。本稿では、徐々に現実的になってきた「日本版DBS」について考えていきます。

 

◾️「日本版DBS」とは

「日本版DBS」とは、子どもと接する事業者に、従業員らの性犯罪歴の確認を求め、犯歴のある人の就労を制限する制度です。イギリスの「DBS ―Disclosure and Barring Service(前歴開示・前歴者就業制限機構)」を参考にしています。

犯歴が確認されると事業者は配置転換などを義務付けられるため、就労を事実上、制限する仕組みとなります。

 

◾️対象とする事業所

以下の3要件を満たす職場が、「日本版DBS」照会の対象となっています。

 

具体的には、学校や保育所、放課後児童クラブや学習塾などが挙げられます。運用は、2つに分けられます。

行政に監督・認可などの権限がある学校や認可保育所などには、犯歴の確認を義務付けました。一方で、放課後児童クラブや認可外保育所、学習塾、スポーツクラブなどは制度の対象を認可制としました。一定の要件を満たし、こども家庭庁を通して政府から認定された事業者では、犯歴確認が義務化されます。

 

◾️対象とする「特定犯罪前科」

照会の対象となる性犯罪の種類は、裁判所で有罪判決が確定した、不同意わいせつ罪など刑法犯の「前科」に加え、痴漢や盗撮など自治体の条例違反も含まれます。

一方、示談を踏まえた不起訴処分や、行政機関による懲戒処分、下着などの窃盗、ストーカーなどは対象外とされました。

 

◾️照会期間

性犯罪歴の紹介期間については、今回の法案作りで大きな争点となりました。

◾️問題点と今後

「日本版DBS」は過去の記録がないと機能しないため、初犯を防ぐことはできません。日本における性犯罪のうち約9割を占めている初犯をどう防ぐのか、この問題についても並行して考える必要があります。

さらに、事業者の負担が大きくなります。学習塾やスポーツクラブなど任意参加の事業所については、制度の認定機関かどうかが保護者の選択基準になりそうです。いずれは、制度の対象となることが当たり前になるでしょう。中小事業所にとっては事務作業が大幅に増え、経営自体に大きな影響をもたらすことが考えられます。

また、フリーランスのベビーシッターや家庭教師、個人で営む学習塾など雇用関係を持たない個人事業主は対象から外されました。そのため保護者から敬遠され、将来的に存続できなくなってしまうかもしれません。

憲法や刑法との整合性をどう保つか、ということも大きな課題です。刑の消滅期間を超えての照会は、社会復帰や更生を妨げるかもしれません。また、犯歴は重要な個人情報です。「プライバシー権」保護の観点からも慎重な扱いが求められます。制度自体が「職業選択の自由」を制約されるおそれもあります。

 

これまで述べた通り、いくつもの問題を孕んではいますが、「日本版DBS」の創設は進めていくべきと筆者は考えます。性暴力は体だけでなく心をも傷つけます。その傷痕は一生残ることさえあります。性暴力を防ぎ、被害に苦しむ人を減らすために、政府や国会には積極的な対応が求められています。本制度は、その第一歩となるのではないでしょうか。

 

 

参考記事:

・5月10日付 朝日新聞 朝刊 2面 「日本版DBS 有効性を探る」

・5月8日付 朝日新聞 朝刊 23面 「性犯罪防止 探る塾業界」

・5月8日付 朝日新聞 朝刊 1面 「大手塾の6割 参加意向」

・4月27日付 読売新聞オンライン 「基礎からわかる 日本版DBS」https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20240426-OYT1T50134/

 

・5月16日付 NHK 「衆院特別委『日本版DBS』参考人“確認対象 犯罪範囲の拡大を”」 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240516/k10014451231000.html