映画からジャーナリズムを考える【映画×ジャーナリズム】の第五弾、最終回です。今回は、アメリカで1999年に製作された映画『インサイダー』を取り上げます。この作品ではメディアと取材相手との信頼関係を主題に据え、実際に起きた出来事をもとに取材する側の葛藤、情報を提供する側の勇気や苦悩がよく描かれています。
物語は、ある内部告発から始まります。タイトルであるインサイダーには部内者、さらには内部の事情に通じている人という意味があります。そこからも分かるように、この作品は、大手タバコ会社に勤めていたジェフリー・ワイガンドによる内部告発をきっかけに物語が進展するのです。
アメリカの放送局CBSの人気ドキュメンタリー番組「60ミニッツ」でプロデューサーを務めるローウェル・バーグマンは、彼の内部告発によって、衝撃的な事実を知ることになります。どうにか真相を世に伝えるため、ワイガンドに接触を図り、番組に出演し情報を公にするよう説得を試みるのです。
バーグマンの働きかけにより、重要な内部情報を握っているワイガンドは情報を公開しようと決心しました。しかし、大手タバコ会社からの圧力や脅迫を受け、彼の生活は一変してしまいます。家族との関係は悪化し、常に不安との戦いを強いられる状況に立たされるのです。当然、圧力をかけられたのはバーグマンら放送局も同じでした。大きな葛藤の末、番組に協力してくれたワイガンドの取材を放送できないかもしれないという状況にまで追い込まれます。
この映画では、メディア側の圧力に屈しない姿勢や、情報を提供する側の覚悟の重さについて考えさせられました。特に、情報源が抱える苦悩や葛藤が印象的です。メディア側は一組織として判断することになりますが、提供する側は一個人の場合も多いといえます。取材に応じ、社会のために情報を提供する決断には想像以上に勇気や覚悟が必要だといえるでしょう。
毎日、私たちは新聞やテレビ、インターネットなどあらゆるメディアからたくさんの情報を得ています。なかには、政府や企業の不正に関わる情報など私たちの生活に直接的に影響を与えるものも少なくありません。情報が私たち市民の目に触れることで守られる生活があります。
しかし、その影には『インサイダー』の登場人物ワイガンドのように自分の人生をかけて情報を提供するという重い決断をした人々がいるということを頭に入れておくべきではないでしょうか。身近な情報がいかに貴重なものなのか感じ取れるようになるはずです。
全五回の【映画×ジャーナリズム】を通して、映画からメディアやジャーナリズムについて考えてみました。映像メディアは、出来事を鮮明に分かりやすく私たちに伝えてくれます。膨大な情報が溢れる今を生きる私たちだからこそ、この機会にさまざまなメディアについて考えることはとても大切です。まずは、私たちが紹介した映画を見ることから始めてみませんか?
参考記事:
17日付 朝日新聞朝刊(大阪13版)11面(オピニオン)「価値ある1面記事 非購読者にも」
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