【映画×ジャーナリズム④】『大統領の陰謀』―ジャーナリズムと権力監視―

映画×ジャーナリズムの第4弾です。今回は、私が2日間のゼミ合宿で鑑賞した映画の中から、『大統領の陰謀』を紹介します。1976年に公開されたこの作品は、72年にアメリカで起きたウォーターゲート事件をきっかけに、当時のニクソン大統領の不正が明らかにされる様子が描かれています。映画を見て、ジャーナリズムにおける「調査報道」と「権力監視」について知ることができました。

 

主人公はワシントン・ポスト紙のウッドワード、バーンスタインという若手記者2人組です。大統領選のさなか、米民主党の本部で盗聴器を持った侵入者が発見され、逮捕されました。犯人の1人が元CIA(米中央情報局)職員であることに疑問を持った2人は粘り強い調査を続け、ニクソン大統領再選委員会での不自然な金の流れに気づきます。侵入事件は、ニクソン陣営による不正の氷山の一角にすぎなかったのです。

 

映画では、2人の記者による地道な取材が印象的でした。電話帳を調べて様々な場所に電話をかけたり、関係者の自宅を訪れたりして情報を聞き出します。驚いたのは個人の家や会社だけでなく、ホワイトハウスにも直接電話を入れ、話を聞いていたことです。会社名を伝えればいろいろな人の話が聞けるのは、記者ならではの権利です。やがてニクソン再選委員会の名簿を手に入れた2人は、記載されている人の家を1軒ずつ訪ねます。気が遠くなるような作業ですが、断られ、時には罵られてもあきらめません。このような積み重ねが少しずつ事実を明らかにしていく情景から、調査報道の難しさと意義を感じます。

 

ジャーナリズムは権力のウォッチドッグ(番犬)であると言われます。不正が報道されると、ニクソン陣営は「ポスト紙のキャンペーンは偽善である、政治的な策謀である」と発表し、ワシントン・ポストを厳しく批判しました。これに対し、2人の上司は「言葉の遊びだ、反証は必要ない」と記者たちを励まします。さらに、「守るべきは憲法の修正第1条だ」と述べました。これは言論の自由を定めた条文を指します。記者たちが権力に屈さず、読者のため、国民のために真実を追求する姿勢に圧倒されました。そしてニクソン大統領は辞任に追い込まれます。

 

今月3日、国際NGOの「国境なき記者団」が「報道の自由度ランキング」を発表しました。日本の順位は70位で、主要7か国(G7)の中で最下位です。NGOは日本の状況について「伝統の重みや経済的利益、政治的圧力、男女の不平等が、反権力としてのジャーナリストの役割を頻繁に妨げている」と述べています。

 

この映画を見て、メディアの存在意義について再考するきっかけになりました。また、日本の報道についてもっと知りたい、と感じます。ジャーナリズムとはどんなものであるべきか、皆さんもぜひ考えてみてください。

 

 

【参考記事】

5日付 朝日新聞朝刊(大阪14版)22面(社会)「報道の自由 日本70位」

 

【参考資料】

ボブ・ウッドワード、カール・バーンスタイン著 常盤新平訳「大統領の陰謀〔新版〕」(ハヤカワ文庫、2018年)