先月公開された映画『スポットライト 世紀のスクープ』。2003年にピューリツァー賞を公益報道部門で受賞した『ボストン・グローブ』紙での実話に基づくストーリーです。米国の新聞社の調査報道班として最も長い歴史を持つ同紙「スポットライト」チームが、カトリック司祭による性的虐待事件を、地道な取材を重ねて特報しました。筆者も公開後、劇場へ行きました。記者の「力」に屈しない精神に感動し、「ジャーナリズムとは何か」を考えさせられました。
調査報道で思い浮かぶのが「パナマ文書」。世界に衝撃を与えたスクープです。各国の政治家や財界人など富裕層の蓄財の闇を照らし、税負担の不公平さに対する市民の怒りに火をつけました。パナマの法律事務所「モサック・フォセンカ」(MF社)が作成した150万点の電子ファイル。21万余の法人名と、その株主や役員となっている企業や個人の名前と住所地がきょう未明に公表されました。
「パナマ文書」に含まれていたタックスヘイブン法人の株主や役員のうち、400余の法人と個人が日本を住所としています。日本企業は少なくとも20社ほど、日本人と見られる個人は約230人。政治家の名前は見つかっていません。企業経営者では飲料大手の社長や大手警備会社の創業者らが英領バージン諸島の法人株主となっていましたが、いずれも租税回避の意図を否定していると、朝日新聞は伝えています。
筆者が一連の報道に対して疑問を抱いていた点は、この問題に関する国内での報道のされかたです。どこか、「海外で起きたスキャンダル」として伝えてきたように思えてならないのです。
香港では、「パナマ文書」をめぐる特集を組んだ新聞社の編集幹部が突然の解雇にあいました。人口33万人のアイスランドでは、2万人規模の抗議デモが起きています。ピケティ氏など経済学者らは「タックスヘイブンが持つ秘匿性が汚職を促している」などと批判しています。たしかに、「世界を」揺るがしたニュースです。
翻って日本ではどうでしょうか。パナマ文書に登場する法人の株主ら(企業・個人)の主な住所は香港が5万4065件と1位。スイス、中国と続き、日本は65位の439件。少ない方ではありますが、日本の企業や個人についても、もう少し情報があってもおかしくないはずです。現時点では、個人名、特定の企業名を出すことは難しいのかもしれません。ですが、企業名をはっきり出して伝えている報道機関もあります。その違いには何があるのでしょうか。
ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)事務局長のジェラード・ライルさんは、「私たちの役割は、暴露すべきものを、単純に暴露することです」と語ります。日本の報道機関に携わる方は、この言葉をどう捉えるでしょうか。隠れた闇に「スポットライト」をあて、力に屈せず「事実」を伝えてほしい。そんなことを、紙面を読み考えました。
参考記事:
5月10日付 朝日新聞朝刊(大阪14版)1面(総合)「パナマ文書未明に公表」,2面(総合2)「パナマ文書 闇の一端」,10面(国際)「米の租税回避地では」,13面(耕論),33面(社会)「本社どう取材」
同日付 日本経済新聞朝刊(大阪14版)3面(総合2)「パナマ文書きょう公表」,6面「英、税逃れ対策に苦慮」