予算・税制作業大詰め ―政府、重要課題 来年度へ先送り

来年度の政府予算編成や税制改正の議論が大詰めを迎えています。自民党のパーティー券問題が浮上する中で、重要課題が先送りされています。

「先送りできない課題に一意専心取り組む」。11月9日、岸田文雄首相は記者団の取材にこのように述べました。解散の是非を問われたもので、政局よりも政策優先という口ぶりでした。

臨時国会では13兆円規模の補正予算を成立させ、住民税非課税世帯向けに1世帯あたり7万円を給付するなど物価高への対応策を打ち出しました。さらに、住民税や所得税などを合わせて一人あたり4万円の定額減税の実施を発表し、インフレや実質賃金の低下に苦しむ国民に寄り添う姿勢を示しています。

12月に入り、予算編成や税制改定の作業が大詰めです。自民党の税制調査会は、「令和6年度税制改正大綱」を12月14日に総務会へ提出し、即日了承されました。加熱式たばこが増税の対象になり、話題となりましたが、昨年から議論されていた防衛増税などは結論が見送られました。以下では先送りされた課題について簡単に解説していきます。

 

(1)防衛増税

昨年、公表されたいわゆる「安保3文書」によって、日本の防衛力強化の推進が政府方針となりました。自衛隊の防衛力強化のために2027年度までの5年間の総額で43兆円程度の防衛予算の確保が必要とされました。

問題となるのは財源です。政府は歳出削減や年度内に使いきれなかった予算である決算剰余金、あるいは税外収入によって賄うとしています。しかし、これらを積み上げても1兆円程度不足することが明らかになっており、増税の必要性が昨年から叫ばれてきました。

政府は、所得税、たばこ税、法人税の3つから段階的に引き上げを実施し、不足分を確保する計画でした。しかし、実施時期に関して昨年から与党内で議論がありました。最近では、定額減税を打ち出したのに、増税するのはおかしいという意見が出ているうえ、パーティー券問題で支持率が下がる中で増税を打ち出せないなど政治的な思惑も働いているようです。

そのため、今回の税制大綱では開始時期を「2024年以降の適切な時期」として、結論の先送りとなりました。

(2)防衛装備移転

防衛装備移転について議論する自民党の作業部会は、8日政府への提言をまとめました。防衛装備の輸出についていくつかの緩和策を示していて、政府も提言に沿って、制度の改定を進める模様です。これまでできなかった他国の技術を使い生産した「ライセンス品」をライセンス元へ輸出できることなどが盛り込まれました。

一方で、他国と共同で開発した防衛装備品について第三国に輸出できるかどうかの結論は来年に持ち越しとなりました。これは、日本、イギリス、イタリアの3か国で開発し、35年の配備を目指す次期戦闘機を念頭に置いたものですが、公明党の反対により結論が出ていません。

(3)能動的サイバー防御

サイバー攻撃による被害が相次いでいます。昨年6月、徳島県にある鳴門山上病院で患者のカルテなどが閲覧できない状態となりました。また、今年の7月には名古屋港のシステムがサイバー攻撃にあい、トヨタの工場が一時ストップするなど混乱を招きました。

政府は、こうした重要なインフラなどへのサイバー攻撃に対処するため、「能動的サイバー防御」の発動を検討してきました。これは、サイバー攻撃を受けた際に、攻撃元を特定して相手方のサーバーなどへ侵入して攻撃を阻むものです。しかし、日本の憲法では「通信の秘密」が定められていて、攻撃元を特定するなど通信の内容を解析することが法的に可能かどうか議論となっています。

能動的サイバー防御のためには、こうした憲法の規定との整合性が求められ、不正アクセス禁止法など関連する法律の改正も必要とされてきました。今年7月に政府はそのための法案を来年度に提出する方針を固めましたが、報道によれば、来年の通常国会への提出は間に合いそうにありません。

政府は重要課題を先送りせず、真摯な対応を

予算編成作業が活発に進む一方で、報道では自民党のパーティー券問題が取り沙汰されています。しかし、来年度へ向けて重要な課題が山積しています。これまで述べてきた防衛予算の問題に加えて、少子化対策予算や高騰するガソリンへの対応など多くの課題を抱えています。政府には、こうした難題に及び腰になることなく、積極的に取り組んで欲しいものです。

<参考文献>

2023年11月30日付朝日新聞朝刊(東京13版)3面「13.2兆円、補正予算成立 財源7割が借金、戻らぬ平時」

日本経済新聞「ライセンス元に完成品の輸出解禁 防衛装備で与党提言案 」

日本経済新聞「岸田政権、政策推進に逆風 防衛増税は25年見送りへ 」

NHK 防衛力強化へ増税の負担~求められる丁寧な説明