理屈じゃない感情

EUから離脱すべきか、残留すべきか。イギリスは6月に国民投票を控えています。残留派は経済的なメリットを主張します。一方の離脱派は、EUに対して不満を募らせています。共通の外交政策ができていない点や難民問題、テロ対策の不十分さに批判の目は向けられています。

今日の記事によると離脱派を支える人は、英国は大陸欧州とは違うというプライドを持ち、とくに73年のEC加盟前を知る世代には「独立」という言葉は魅力的に響くそうです。今やEUは当たり前の存在となっています。そうなればなるほど、プラス面よりは悪い面が目に付きがちです。そして、前の時代を羨ましく思う。日経の記者は、こうした英国内の動きを次の一文に込めたのでしょう。

理屈を超えた感情が欧州統合の行方を左右しようとしている

記事では離脱派の感情の動きが取り上げられていましたが、当然ながら残留派にも理屈ではない感情があるはずです。

3月にヨーロッパに行き、欧州評議会や欧州委員会を見学してきました。見学後にわかったのは、EUはいまだに後に続くものがいない挑戦的な統治体制だということです。課題はたくさんあります。だからこそ、ヨーロッパの人々が日々論じあい、試行錯誤しています。それは妥協、交渉の歴史でもあります。そして多くの成果を残しています。例えば、ヨーロッパの共同意識、戦争の芽を摘む平和への努力です。

「スパニッシュ・アパートメント」(2002年)という映画はご存知ですか。バルセロナに留学するフランス人が欧州のさまざまな国籍の学生と共同生活をする物語です。この作品の背景に欧州統合があります。主人公はエラスムスというEUの留学プログラムを利用していました。この制度のもと自国以外で学ぶことで、学生の間に欧州市民という共通のアイデンティティを形成することにもつながっています。 映画をみると、EUによって国境が開かれ人とモノが自由に行き交うことにロマンを感じました。

こうしたある意味、楽観的ですが理想に近い感情を残留派は抱いているのではないでしょうか。

パナマ文書に関して、残留派であるキャメロン首相が父親の株保有を認めました。国民投票に影響が出るとも言われています。英国民がどちらの選択をするか予想がつきません。これからの欧州の行方を左右する大切な投票になります。双方の気持ちを想像しながら見て行くこととします。

参考記事:

28日付 日本経済新聞  東京14版 7面 国際面「EUへ不満と期待 二分」