前回は、町家や古民家を観光資源として再生している愛媛県大洲市の戦略について、地域課題の解決という視点で解説してきました。今回は、観光整備と地域との関係性という視点から大洲市の観光戦略を紐解きます。
1.目指すはBefore Afterではなく、Before Before
かつては空き家が目立っていた大洲。町を歩くと、現在では多くの店舗やホテルとして活用されていることがわかります。
保全の際は、歴史背景を勘案して、景観や情緒は残しつつ、元に戻せるように修繕することが重要だそうです。「NIPPONIA HOTEL大洲城下町」からも、その様子がわかります。ホテルとして活用する際、建物が持つ歴史的価値を失わないように町家のリノベーションには工夫が凝らされています。多少の汚れや壊れた部分はそのままにしておくことも。一度壊してしまえば二度と再生できない建物の持つ息遣いは、観光客のニーズにも合致するのです。
2.地域にお金が回る仕組みで持続可能性アップ
町家の所有者とは関係を持ち続けることが、地域再生という点で重要です。所有者に賃料を支払って、建物を借りることが町づくりのベースとなっているそうです。土地ごと建物を買い取ると、そこで関係が終わってしまうからです。あえて買い取らずに賃料を支払い続ける仕組みにすることで、企業だけでなく住民や地域にもお金が回るようにしています。観光による利益が地域に還元されることで、住民の観光整備に対する理解も深まります。また、地元工務店に町家・古民家の再生のノウハウを伝える場を設けています。それに加え、修繕した建物の住民向け内覧会を積極的に実施。地域住民からの要望や提案を受け入れることで、地域からの信頼を集めることも欠かせません。
歴史ある建物は残すだけではなく、活かすことで経済効果を生みます。そこで得た利益は建物のみならず、地域の持続可能性を高めることに繋がっているのです。
3.伊予の小京都、世界一に
このような持続可能な観光整備と街づくりは、世界的にも高く評価されています。
国際公式認証機関であるオランダの非営利団体グリーン・デスティネーションズは2022年に「世界の持続可能な観光地」100選に大洲市を選定。さらに2023年には大洲市を文化・伝統保全部門で1位に選びました。
目先の利益のみならず、数十年、数百年後も愛される地域に。そのためには長く受け継がれてきた地域の魅力を次世代に伝える工夫が重要です。大洲市が抱えていた空き家問題は、歴史的資源として観光に活用され、解決の方向に進んでいます。城下町は住民によって支えられてきました。今までもそうだったように、これから先も行政のみならず、市民が主体となって地域を維持する工夫が求められています。
次回は、地域住民と観光客の共存のために大洲市が取り組んでいる、ターゲティング戦略を紐解きます。
参考記事
日本経済新聞2021年11月19日『城下町観光、宿泊客誘う、愛媛・大洲で古民家ホテル続々、文化財や特産品活用、保全と地域活性化両立』
日本経済新聞2022年10月7 日『世界の持続可能な観光地100選 城下町再生、愛媛・大洲に 香川・小豆島は2年連続 SDGsテーマに誘客』
朝日新聞2023年06月16日 『(#SDGs)「持続可能な観光地」選出立役者、ディエゴ・コサ・フェルナンデスさん』
朝日新聞2023年06月15日『(ひと)ディエゴ・コサ・フェルナンデスさん 愛媛県大洲市を「世界一」に導いたスペイン人』