福島県内での除染に伴い発生した土を保管する「中間貯蔵施設」(福島県双葉郡)を見学しました。2045年までに、保管されている全ての土壌を県外へ搬出することが法律で定められていますが、引き受け先の目処が全く立っていません。現状と課題を取材しました。
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中間貯蔵施設は、東京電力福島第一原子力発電所を取り囲むように建設されています。現在でも一般の人が立ち入ることのできない帰還困難区域に指定されているエリアです。11年3月の事故により、福島県内には大量の放射性物質が降り注ぎました。事故後、除染作業により発生した除去土壌や廃棄物は県内各地の仮置き場へ集積されましたが、一括して土壌や廃棄物を管理する施設の必要が生じました。政府は、福島第一原発周辺(大熊町、双葉町)の用地買収を進め、県全体の除去土壌や廃棄物を持ち込み、保管する「中間貯蔵施設」の建設に着手しました。
15年3月から、徐々に各地の仮置き場から中間貯蔵施設へ搬入が開始され、17年には、土壌貯蔵施設への貯蔵が開始されました。これまでに、福島県内の輸送対象市町村(52市町村)のうち、46市町村からの輸送が完了し、最終的には約1400万㎥(東京ドーム約11杯分)を保管する予定です。
実際に、県内各地からダンプトラックなどで届いた除去土壌は、受け入れ分別施設(図2)に一旦運ばれます。ふるいにかけられて草木などを取り除き、土壌のみとなったところで、再びダンプやベルトコンベアに乗せられて土壌貯蔵施設へ運ばれます。この施設では、堰堤と呼ばれる大きなくぼみの中へ土壌を投入し、遮水シートなどで雨水が地下へ漏れ出ないようにするなど、慎重に管理されています。
この度、見学会に参加し、現地の状況を視察してきました。見学会は定期的に開かれ、一般の人でも施設内での作業の状況などを視察できます。土壌搬入作業自体は、8月時点でほとんど完了し、ベルトコンベアなどの施設も一部で解体が始まっていました。見学会のプログラムの中には、実際に施設内の放射線量を測定できる機会も用意されています。筆者もガイガーカウンター(放射線測定器)を手に測定に挑戦してみました。地面にカウンターを向けない空中の線量(=空間線量)の測定でしたが、東京での線量と大きく変わらない平均的な水準でした。ただ、作業員が立ち入るエリアは除染をしていますが、施設として直接使用することのない山の斜面などは除染を行なっていないようです。そのため、除染が進んでいない箇所では、線量が高く、中間貯蔵施設内にもムラがあるそうです。
中間貯蔵施設という名称で呼ばれているものの、この土地には、原発事故以前は一般の方々が普通に住んでいました。しかし、事故により線量が高く、帰還が困難とされたため、政府が用地買収を進め、現在の施設になりました。土壌の搬入を最優先としたため、当時の建物が残されている箇所もあります。
写真3は、福島県水産種苗研究所です。津波の被害だと思われますが、屋根の骨組みが生々しく剥き出しになっています。現在は使用されておらず、また崩壊の危険があるため、立ち入りが禁止されています。
ところで、見学した施設の名称が「中間」貯蔵施設だったことからもわかるように、この場所で最終処分するわけではありません。中間貯蔵・環境安全事業株式会社法には、除却した全ての土壌を中間貯蔵開始後30年以内に、「福島県外」で最終処分することが定められています。2015年に貯蔵を開始したため、45年が最終期限となります。福島県飯館村で、土壌をどのように活用すべきかを検討するため、畑の土に活用することなど実証実験が行われています。しかし、こうした実験向けを除いて土壌の搬出はなく、処分の目処が立っていません。東京都新宿区にある新宿御苑でも実証実験をする計画がありましたが、住民の反対により実現できずにいます。説明役の職員は、「もっとこの問題を知って欲しい」と話していました。震災から12年が経過してもなお、問題は山積しています。政府には、震災の記憶を風化させないことだけではなく、持ち越された課題を直視し、具体的な政策を先手先手で実行する重い責務があります。