音楽に彩られる夏~PMF札幌~

7月12日から8月1日にかけて、国際教育音楽祭「パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌2023」(PMF)が、札幌を中心とした道内各地と東京のサントリーホールで開催されました。

今回は、気鋭の若手演奏家たちによる音楽の祭典の様子をお伝えします。

○札幌発の国際教育音楽祭

PMFは、20世紀を代表する音楽家レナード・バーンスタインによって1990年に札幌で創設され、今回が33回目の開催となります。

Kitaraのそばにあるバーンスタイン像(2022年6月3日筆者撮影)

PMFでは教育面が重視されており、世界各地から集まった気鋭の若手演奏家たち(アカデミー生)が、著名な指揮者や世界の主要オーケストラの首席奏者たち(教授陣)による指導のもとでさらなる高みを目指しています。アメリカのタングルウッド音楽祭、ドイツのシュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭と並ぶ「世界三大教育音楽祭」のひとつとも称されています。

音楽祭には、これまでに約4000人の若手音楽家が参加しています。PMF修了生は、ウィーン・フィルやベルリン・フィル、シカゴ響など世界の主要オーケストラで活躍しており、中には教授として再びPMFに参加する修了生もいます。

 

今回、筆者は3公演を鑑賞しました。以下、それぞれのコンサートの様子を記します。

○PMFオーケストラ演奏会(7月15日)

コンサートは、バーンスタイン作曲の「キャンディード」序曲で幕を開けました。彼が創設した音楽祭で、コンサートのオープニングを飾るのにこれほどふさわしい曲はないでしょう。エネルギッシュな演奏を前に、聴衆の熱気も一段と高まります。

2曲目は、グリーグのピアノ協奏曲です。ソリストは95年カナダ生まれの若きピアニスト、ヤン・リシエツキ。アカデミー生と同世代のピアニストによる演奏に、若者中心の音楽祭であることを改めて実感しました。

プログラムの最後を飾るのは、ショスタコーヴィチの交響曲第5番。演奏には教授陣も加わります。指揮者のウルバンスキは、指揮台の上を所狭しと動き回っていました。第4楽章ではテンポを大きく揺らして演奏するなど、指揮者独自の解釈が現れているように感じました。

○ピクニックコンサート(7月29日)

ピクニックコンサートは、札幌芸術の森・野外ステージで開かれました。

このコンサートの特徴は、気軽にクラシックを楽しめる点です。大勢の観客が、芝生の上でくつろぎながら演奏を楽しみます。小さな子供を連れた家族や若いカップルも多く、次の世代へのクラシックの普及という点でも、PMFが大きな役割を果たしていることを実感しました。

ピクニックコンサートの様子(7月29日筆者撮影)

プログラムのメインは、ブルックナーの交響曲第9番(第4楽章補筆完成版)。演奏時間約80分の大曲です。真夏の昼間に屋外で1時間半近い大曲を聴くのはかなり辛かったですが、非常に貴重な体験でした。

演奏の途中、楽章が変わる際には、小さな子供が「ブラボー」と歓声を上げました。普通、楽章の変わり目では拍手をしたり歓声を上げたりはしないのですが、小さな観客の「ブラボー」に周りの聴衆も思わず笑みを浮かべました。

○PMF GALAコンサート(7月30日)

GALAコンサートでは、前日とほぼ同じ曲目が演奏されました。

第1部は、日本のトッププレーヤーが結成した「ARK BRASS」による金管アンサンブルの演奏でした。今回演奏した6人のメンバーの内、3人はPMF修了生です。

第2部では、まずメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が演奏されました。ソリストの金川真弓は、長身の指揮者ダウスゴーと並ぶと小柄に見えましたが、体格差を感じさせない圧巻の演奏で聴衆を魅了しました。

プログラムの最後は、ブルックナーの交響曲第9番。会場が日本でも有数のコンサートホールであるKitaraであるため、オルガン的なブルックナーの音楽の響きを存分に楽しむことができました。ダウスゴーも、前日よりも間を長くとり、ホールに響く余韻に聞き入っているように見えました。

札幌コンサートホールKitara(7月30日筆者撮影)

 

30年以上の歴史を持つPMFですが、様々な困難にも直面しています。2020年にはコロナ禍によって中止を余儀なくされました。また、財政基盤の安定化も急務であるとされています。

秋元克広PMF組織委員会理事長(札幌市長)から委託を受けてPMF将来ビジョン検討委員会が策定した「PMF将来ビジョン2020」では、「PMFの継続実施はもはや札幌の歴史的使命である」と力強く明記されています。一人のファンとして、この音楽祭が今後何十年と継続されていくことを願ってやみません。

 

参考記事:

8月16日付 北海道新聞夕刊(全道)5面「〈音楽会〉PMF GALAコンサート*ダウスゴーの卓越した指揮に驚嘆」

8月8日付 北海道新聞夕刊(全道)5面「〈音楽会〉PMFオーケストラ演奏会*ショスタコービッチの心描く秀演」

7月13日付 北海道新聞朝刊(全道)26面「〈PMF SAPPORO〉世界から74人 平和の音奏で開幕*来月1日まで25公演」

2020年4月4日付 朝日新聞朝刊22面「初夏の彩り失せる札幌 YOSAKOI組織委、中止発表 新型コロナ、影響続く/北海道」

2020年4月4日付 読売新聞朝刊(東京)25面「YOSAKOI、ライラックまつり、PMF 札幌の風物詩 続々中止=北海道」

参考資料:

PMF将来ビジョン検討委員会「PMF将来ビジョン2020―平和をつなぎ 人をつなぎ 音楽をつなぐ PMFのこれから―」

PMF組織委員会「Pacific Music Festival 2023 GUIDEBOOK」

PMF「PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌)」(ホームページ)