三紙と考える 戦争との向き合い方

今日8月15日は終戦記念日。戦争に直接の関わりを持たない筆者は戦争をどう考えればいいのか、朝日、日経、読売三社の記事と社説を元に、考えてみようと思います。

 

■朝日新聞

三紙の中では唯一、朝夕刊共に一面に戦争の記事が載るなど、戦争報道に一番力が入っていると感じました。

特徴として挙げられるのは、戦争を直接経験した人の証言かどうかにはこだわっていない点です。例えば、朝刊一面「抜け殻だった父 心の傷いま知った」は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を戦場で患った復員兵の家族を題材に、今なお残る戦争の爪痕を伝える記事でした。

夕刊一面も「戦禍 世代超え思う」と同じ切り口でした。また、朝刊のオピニオンコーナーでもテーマは「戦争 どう語り継げば」で、コメントを寄せた三人は戦争に関する直接的な経験はない様子でした。戦争報道の意義の一つである「次世代に語り継ぐこと」を体現したような記事が多く、より自分事として読むことができたような気がします。

終戦から78年もの時が経った今、証言を直接聞けなくなる時代を見据えた、先駆的な内容だと感じました。

 

■日本経済新聞

経済紙ということもあり、他紙に比べ、戦争に関する記事は明らかに少なめでした。ただ、朝日と同じく復員兵のPTSDに関する記事や全国戦没者追悼式の記事などがあり、オピニオンコーナーでも終戦の日に触れています。

記事の特徴としては、この日を節目と捉え、これからの世界情勢について大局的な視点から再考している点が挙げられます。顕著に表れているのが、オピニオンコーナーの記事「終戦の日に考えたい寛容」です。民主主義と権威主義の対立に代表される、世界に広がる分断を「不寛容」、つまり互いが歩み寄らないことを軸に分析しています。正しい歴史認識の重要性を説いている社説然り、証言や体験談を語り継ぐというよりは、戦争を防ぐ方策について現在視点で考えているようでした。

経済という主軸はぶれず、現代の政治・経済状況とからめ、よりリアルな問題として戦争を扱っていると感じました。

 

■読売新聞

一面トップには他のニュースを優先しつつも、朝日と同様に戦争報道に力を入れていると感じました。

記事の特徴としては、当時の記録を今に伝えることに真摯に向き合っている点が挙げられます。「首都 巨大な軍事中枢に」では、当時の東京の軍事施設の様子を写真や地図で確認することができます。戦争の時系列は知っていた筆者でしたが、関連する施設について一覧したうえで確認したことはなかったため、新鮮でした。また、社説も特徴的で、安全保障についてはとことん議論するべきと言うに留めた朝日とは対照的に、三紙で唯一、防衛力の強化の必要性にもはっきりと触れています。

「記録し、後世に伝える」という新聞の役割を果たすと共に、防衛力の強化という形で戦争の教訓を活かそうとしているのだと感じました。

 

■筆者の感想

「『安全保障環境は厳しさを増している』。そんな決まり文句が、私達の思考を停止させてはいないか。もちろん国を守る備えは大切だ。だからこそ、とことん議論する必要がある。」(15日付 朝日新聞社説より抜粋)

「平和を唱えるだけではなく、相手に侵略や攻撃を思いとどまらせるような抑止力や反撃能力を持つことが不可欠である。」(15日付 読売新聞社説より抜粋)

 

今回の新聞の読み比べを通じて、それぞれの視点から戦争について学びを深めることができました。そして、個人や立場の違いによって見方は変わること、意見が違っていてもいいという当たり前なことを再認識することができました。

ウクライナ侵攻や台湾制圧への危機感など、戦争にまつわる議論は日々深刻さを増しています。それに呼応するかのように、自衛隊の憲法明記への動きなど、戦争への準備ともとれる対応も見られます。そんな中、戦争及び武力行使について是非を述べることは、無知をさらけ出すようで気後れしがちです。しかし、上の社説に現れているように、現代の複雑な国際情勢と国によって異なる歴史観の中で、意見が割れるのは当たり前のことです。だからこそ、今日のような節目の日をきっかけに、自分で考えることが重要だと思います。

戦争の経験を持たず、歴史や国防のことも大してわかっていない筆者が人に言えることはほとんどありません。ただ、ずっと思っているのは、戦争に対する拒否感や嫌悪感を常に持っておきたいということだけです。防衛に関する議論が必要であることは理解できますが、防衛力は一歩間違えれば攻撃能力になることもまた確かです。そして、その防衛力が役立つ時が来るとすれば、その時は誰かしらが犠牲になっているということです。国防という漠然とした言葉の中にも、戦争があるということを忘れたくはありません。

真偽に関わらず、戦争には必ず大義があります。それに目を奪われてしまうと、正当性が生まれ、時に戦争を肯定してしまうことに繋がるでしょう。重要なのは、先人たちの悲劇と思いを受け継いだ上で、戦争や武力行使について考えを持つこと、そしてそれを「正解」だと思い込まないことではないでしょうか。そんな思いを新たにする終戦記念日となりました。

 

参考記事

(社説)戦後78年 日本と世界 自由を「つかみかえす」とき:朝日新聞デジタル (asahi.com)

[社説]戦争阻む歴史を見る眼を培いたい – 日本経済新聞 (nikkei.com)

社説:終戦の日 ウクライナが示す平和の尊さ : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)

(残響 78年後の「戦争」:4)抜け殻だった父、心の傷いま知った 戦場体験、子ども・孫も苦しむ:朝日新聞デジタル (asahi.com)

戦禍、世代超え思う 曽祖父が戦死、16歳「もっと知りたくなった」 78回目、終戦の日:朝日新聞デジタル (asahi.com)

(耕論)戦争、どう語り継げば 神田香織さん、山元研二さん、奥泉光さん:朝日新聞デジタル (asahi.com)

終戦の日に考えたい寛容 価値の分断越えるリアリズムを – 日本経済新聞 (nikkei.com)

・15日付 読売新聞朝刊(埼玉13版) 特別面 「戦後78年 軍と町の記憶 首都 巨大な軍事中枢に」