藤井聡太竜王・名人 前人未到の八冠独占に向けて

忘れもしない2020年6月。コロナ禍でおうち時間を持て余していた筆者を、将棋の世界に誘(いざな)った「藤井聡太七段(当時)、最年少でタイトル挑戦へ」というニュース。そこからわずか3年、あっという間だった。藤井聡太竜王・名人は、8つあるタイトルのうち唯一保持していない王座への挑戦を決め、前人未到の八冠独占がいよいよ現実味を帯びてきた。

 

本当に藤井聡太竜王・名人は王座戦と相性が悪い。2017〜18年度の本戦準決勝が最高成績で、それ以外は本戦1回戦敗退どころか、本戦に出られなかった年すらある。決して今年度の本戦も楽ではなかった。第2回戦の村田顕弘戦は最終盤まではっきり負けの局面から奇跡の逆転。決勝戦の豊島将之戦も2転3転の末なんとか勝利。ニュースでは勝ったことだけが報じられるが、藤井ファンとしてはやはり今年もダメかと何度思わされたことか。

特に4日の豊島戦はどちらが勝ってもおかしくない熱戦だった。同年代の伊藤匠六段や同期の大橋貴洸七段が対藤井として注目されているが、やはりラスボスは豊島九段をおいて他にはいない、そう思わされる対局だった。

対戦数も32戦と他の棋士より圧倒的に多く、同じ愛知県出身。現在の師匠である杉本昌隆八段が「藤井という強い小学生がいるが師匠になる気はないか」と過去に豊島九段に打診するなど、何かと2人は縁が深い。

それだけではなく、藤井竜王・名人をここまで強くしたのも豊島九段と言っても過言ではない。2021年度、王位・叡王・竜王の3タイトルをかけて戦った炎の19番勝負では、それまで負け越していた最大の壁、豊島九段を全てのタイトル戦で破り、苦手意識を克服した。これ以降五冠、六冠、七冠と順調にタイトルを増やし今に至る。

 

そして対戦相手となる永瀬拓矢王座。藤井竜王・名人との出会いは、2017年に戦われたABEMAでの非公式戦の炎の7番勝負。若手ホープ筆頭の増田四段、現在A級棋士である斎藤六段と中村六段、藤井キラーで有名な深浦九段、日本将棋連盟前会長の佐藤九段、現会長の羽生三冠、そして現在王座の永瀬六段(呼称は全て当時)という豪華なメンバー。下馬評ではいくら久しぶりの中学生棋士とはいえ苦戦するという意見が多い中、結果は当時の藤井四段の6勝1敗。この唯一の黒星をつけたのが永瀬王座だった。

この対局の後、永瀬王座の方から連絡をとり練習将棋を開始。AIでの研究が主流の中、藤井竜王・名人が唯一VS(1対1の練習対局)を行う研究パートナーになっている。

王座戦決勝後の記者会見でも、藤井竜王・名人は永瀬王座について対戦が楽しみとする一方で、手の内を知られているので工夫がいるとも答えており、永瀬王座も朝日新聞のインタビューでは、今までの棋士人生で得た全てのものを出力しながら戦わないといけないと答えており、お互いのことを手強いと思っていることがよくわかる。

 

レーティング(1局戦うごとに変動する棋士の強さを表す値)に基づく藤井聡太竜王・名人のタイトル奪取確率は約90%、今年度の先手番勝率は100%。数字だけ見ると圧倒的に見えてしまうが、永瀬王座は粘り強さと受けの強さに定評があり楽に勝たせてくれるような相手ではない。今回の王座戦はどんな棋譜を残し、どんなドラマを生んでくれるのか。最短なら9月27日に八冠の可能性がある。もう2度と八冠に挑む棋士など現れないかもしれない、9月末の将棋ニュースは目が離せない。

 

参考記事:

5日 日経電子版 永瀬王座と藤井七冠、6年の絆 八冠へ立ちはだかる盟友

永瀬拓矢王座と藤井聡太七冠、6年の絆 八冠へ立ちはだかる盟友 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

6日 日経電子版 「藤井将棋」を最も近くで体感 永瀬王座の進境

「藤井聡太の将棋」を最も近くで体感 永瀬拓矢王座の進境 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

7日 日経電子版 「あれを勝つから藤井さんは七冠」永瀬王座が見た大逆転

「あれを勝つから藤井聡太さんは七冠」永瀬拓矢王座が見た大逆転 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

参考資料:

将棋連盟棋士別成績一覧(レーティング)

将棋連盟 棋士別成績一覧(レーティング) (kishibetsu.com)