在留特別許可 「外国人」にヘイトを向けるよりも

 

政府は、日本で生まれ育ったものの、親と共に強制送還の対象となった外国人の子ども約140人に特例で「在留特別許可」を出す方針を固めました。「在留特別許可」とTwitterで検索すると、不満の声続出。「治安が悪くなる」「税金をドブに捨てるな」など、見るに堪えないヘイトも飛び交っています。

彼らの中でどれだけが、行き場をなくして日本にたどり着いた外国人の事情に思いを馳せているのでしょうか。「不法滞在」というレッテルの背景にある彼らの苦難と、140人の子どもとその家族を救うことによる弊害を、冷静に天秤にかけられている人はどれだけいるのでしょうか。

入国管理局で「収容」される外国人に対してしばしば向けられるヘイトの中には、「不法滞在ということは犯罪を犯したということ」「知らなかったからと言ってルールを破って良いわけではない」「ルールを守っている外国人に失礼」といったものがあるようです。

しかしこれはあまりにも、「外国人」を大きく括りすぎていると思うのです。もちろん、ルールを守るだけの、経済的、精神的余裕がある外国人もたくさんいる。来る前に入念に日本のことを調べ、「郷に入っては郷に従え」の精神を持ったうえで、この国での成功をめざす人も。けれど、故郷では豊かな生活が保障されない、政治的宗教的な理由で迫害される、そういう人もたくさんいて、問題の対象となっている外国人の中であればさらにその割合は高いはずです。

藁にもすがる思いで日本での再出発を図ろうとしている人たちを、複雑な日本在住のルールに少しでも適合できていないからと「犯罪者」のレッテルを貼り一蹴するのは、あまりにも残酷に思えます。

日本の国民が、モノが、情報が、世界と繋がっている現代。海外のことは知らない、自分でなんとかしろと全世界の市民の前ではとても言いきれないはずです。世界の貧困、紛争、政治問題も、調べれば、ほとんどの問題が日本とも関わっています。「いかにして多様な人と豊かに暮らしていくか」という課題の対象は、もはや日本国だけにとどめず、地球全体に広げなければなりません。それでこそ、より速く最適解に近づける可能性が高いからです。

もちろん、日本に多くの文化的背景を持つ人々が一気に流入してくることで起こる摩擦は避けられないでしょう。けれど、「だから入れない」という選択肢は非現実的で、犠牲になるものが多すぎます。「外国人が入ってくること」が治安悪化の根源なのではなく、よく見たら「彼らが文化やマナーを知らなかっただけ」かもしれません。ひいては「よく知らない、見た目のちがう彼ら」への偏見がそう思わせているだけなのかもしれません。実際、警察庁の統計が示すように、近年外国人による犯罪は減少傾向にあります。問題を解きほぐし、原因への対処を一つずつ考えれば、誰にとっても住みやすい社会に近づいていくはずです。

「問題があるから弱者を無視する」「ヘイトの目を向ける」のではなく、問題を感じるのなら、「その問題に絞って現実的な解決策を探る」という選択肢を考えてみるのが得策だと思います。

海外とのつながりの恩恵だけ受けて、やって来た弱いものには手を差し伸べない、そんな都合の良い考え方になっていないか。自分が強い立場にいるからこそ口に出せるのではないか。深く傷を負う人がいないか。今一度、発信する前に立ち止まる人が増えることを願います。

 

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4日付 読売新聞朝刊(愛知13版)1面 「在留資格ない子 特別許可へ」