「私より時給高いんだから、ちゃんと働いてよ」
高校をやめた後にしばらく働いていたレストランで、こんな不満を抱くことがありました。どこの職場にも仕事に手を抜く人はいるものですが、そんな人が自分よりも高い給料を得ていたら、やる気が失せてしまいますよね。週に何日か、それも短期間だけ働いているだけだった筆者でも嫌になるのです。週5日や6日のペースで働いている人なら、さらに不満も募るはずです。あくせく働くのがバカバカしくなってしまうことでしょう。
実際、正規、非正規雇用者間の賃金格差是正において、日本は各国に遅れをとっています。フランスやスウェーデン、ドイツにおけるパート労働者の賃金は正社員の80%前後であるのに対し、日本のそれは57%という低さです。この現状では、意欲の差が生まれても不思議ではありません。
そうした現状を改善していくため、自民党は「ニッポン一億総活躍プラン」の一環として、「同一労働同一賃金」の実現に意欲を見せています。正規組の賃金水準を下げるのではなく、非正規の人々の水準を正規に近づける。そのためのガイドラインの策定や法整備、企業に対する支援を政府に求めています。
一方で、日本ならではの課題も指摘されています。正社員となれば転勤はもちろんのこと、長時間の残業も強いられる可能性があります。これは「日本式経営」と呼ばれる、年功序列賃金制と終身雇用制に起因するものです。この二つの制度は正社員の会社への帰属意識を高め、その生活の多くを企業に投じさせるものでした。だから転勤に応じて生活も変えるし、残業で自分の時間が減ることにも大して反感を持ちません。
パートタイム労働者にはこれはあてはまりません。転勤はないし、残業もたいていの場合、正社員より少ないことでしょう。企業に負う責任の大きさが異なるのに、はたしてこれは「同一労働」と言えるのか、というわけです。
もっともな指摘だと感じます。しかし、優先すべきは「日本式経営」の維持ではなく、労働者の労働意欲の維持なのではないでしょうか。伝統的な慣行を一部でも崩す。正社員の帰属意識を薄めてしまっても、正規、非正規の総体として生産水準を維持すれば問題は生じないように思います。
現在日本では労働生産性の成長率が鈍っていることが問題視されています。一人当たりGDPは世界27位(2015年時点)と、経済大国というわりには高くありません。これは一人当たりの労働生産性が低いためと考えられます。少子高齢化により労働力人口が減少を続けることを考えると、今のままではさらに生産性は低迷するおそれがあります。「同一労働同一賃金」の実現で非正規雇用者の労働意欲が高まれば、生産性の向上や経済成長も期待できることでしょう。
日本経済新聞は、労働生産性が低迷する理由の一つとして、雇用のミスマッチを上げています。労働力を生産性の低い産業が抱え込み、成長産業にうまく流れないために労働力が非効率的に使われているのです。これを改めるには、柔軟な労働市場を作ることです。すなわち正社員を長期的に抱き込む「日本式経営」をやめることです。「同一労働同一賃金」の実現によって非正規の働き手の待遇が良くなり、労働力の移転が容易になれば、生産性の拡大が見込めるのではないでしょうか。
参考:
10日付 読売新聞 朝刊 13版 9面「基礎からわかる同一労働同一賃金」
同日付 日本経済新聞 朝刊 12版 3面「けいざい解読 AIやネット、生産性高めるか 柔軟な労働市場 不可欠」