「寿命を迎える再エネ設備 ―持続可能な再エネへ向けて対策を」

再生可能エネルギーの中核である太陽光発電や風力発電設備で老朽化が進んでいます。維持費の問題などから、更新せず、撤去を進める企業もあるようです。2030年代から、太陽光発電設備が一斉に寿命を迎えることから、「大量廃棄」への懸念が高まっています。現状と課題を調べました。

◇風車倒壊

今年3月、青森県六カ所村で、風力発電所内にある風車一基が根元付近から折れ、発電不能となりました。幸いけが人はいませんでしたが、事故の詳しい原因はわかっていません。全長約100mの風車の倒壊は、大変危険です。この発電所は、2003年に運転を開始し、今年で20年を迎えます。一般的に、風力発電設備の寿命は20年から25年と言われており、老朽化も考えられます。

風力発電は、環境問題に対する関心の高まりとともに、90年代後半に全国で広がりだしました。97年には、気候変動対策に取り組む「京都議定書」が採択され、日本では、再生可能エネルギーの利用を促進する「新エネ法」が施行されました。こうした取り組みによって、風力や太陽光による発電設備の設置が一層促進されることとなりました。

◇迎える寿命

しかし、2020年代から30年代にかけて、1990年代後半に設置された再エネ設備が一斉に寿命を迎えます。発電効率の悪さや維持コストの高さから、撤去する業者もあるようです。

2012年には、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が固定価格で買い取る「固定価格買取制度」(FIT)が始まりました。これにより、太陽光発電設備などを設置する業者や個人が急速に増加しました。この時期から、再生エネルギーの普及に弾みがつき、16年には12年比で2.5倍の再生エネルギー設備の導入につながりました。この頃に導入された設備は、30年から40年にかけて一斉に寿命を迎えると言われています。環境省の推計によると、39年には約78万トンの使用済み太陽光パネルが排出されるとされています。産業廃棄物の最終処分量の6%になり、廃棄物処理場が逼迫することなどが懸念されています。

また、法律では太陽光パネルは所有者が処分することとなっていますが、処分費用が払えないなどの理由から、放置されるケースも報告されています。太陽光パネルが適切に処分されずに放置されれば、鉛やセレン、カドミウム等の有害物質などが周囲に拡散する危険性もあり、新たな環境問題へ繋がりかねません。また、近年大雨や土砂崩れなどの自然災害も多く発生しており、適切な維持管理が必要です。

◇政府の対策

以上のような背景から、経済産業省は今年4月、省内に検討会を設置し、有識者などの意見を聞きながら、対策の検討をはじめました。ここでは、適切な廃棄について周知活動を推進することや太陽光パネルの処分が不適切な業者への対応などを含めた幅広い議論が行われています。
また、22年から太陽光発電設備の「廃棄等費⽤積⽴制度」が始まりました。太陽光パネルの廃棄にかかる費用を事前に積み立てておくことを事業者などに義務づけるもので、電力を電力会社に販売する際に、自動的に差し引かれることになっています。積立金は、廃棄の際に繰り戻され、費用の問題から廃棄ができなくなるという事態を防ぎます。

◇持続可能な再エネへ向けて対策を

政府は、50年までのCO2排出量実質ゼロを目指し、政策を進めています。このためには、火力発電以外の太陽光や風力など再生可能エネルギーの活用が不可欠です。20年ほど前に建設された施設の適切な更新が必要です。持続可能な再エネを目指し、官民一体となり、対策を進めなければなりません。

 

<参考文献>

日本経済新聞『再生可能エネルギー狂騒曲3 風車に迫る老朽化の波 』2023年7月5日

産経新聞『青森で高さ100mの風車倒壊 経産省、現地調査 』2023年3月20日

経済産業省『2040年、太陽光パネルのゴミが大量に出てくる?再エネの廃棄物問題 』

経済産業省『FIT法改正で私たちの生活はどうなる? 』

経済産業省『再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルのあり方に関する検討会 』