ジャニーズ事務所に白井氏ら社外取締役が就任 問題解決に向け求められる役割とは

侍ジャパンが3大会ぶりに優勝したWBCから早3か月が経ちました。試合そのものもさることながら、栗山氏が綴ったノートや大谷選手が発した言葉、チーム内のコミュニケーションなどにも注目が集まったことを覚えています。栗山氏は代表監督を退き、大リーグに戻った大谷選手は、既に29号ホームランを放つ(6月30日時点)など、WBC閉幕後はそれぞれの道を歩んでいます。

侍ジャパンのヘッドコーチを務めた白井一幸氏も、新たな道を歩み始める1人です。ジャニー喜多川前社長(2019年死去)による性加害問題を受け、白井氏を含む3名が7月1日付で社外取締役に就任します。コンプライアンスの徹底や再発防止策の確実な実行を含めた経営改革の推進が求められます。

 

ジャニーズ事務所が進めようとしている経営改革において、社外取締役はどのような役割が求められているのでしょうか。

 

まず社外取締役は、できる業務が限定され、かつ一定の独立性をもつ人をいいます(会社法2条15号参照)。会社を代表した取引や予算の編成・執行といった会社運営につきものである一般的な業務はしないものの、それらにあたる取締役への助言や監督が期待されています。

社外取締役になるための専門知識や資格は必要とされていないため、どんな能力を持った人が何を求められて任命されるかは個々のケースによります。今日では元アスリートや著名人を選ぶ企業も目立っており、スズキはシドニー五輪女子マラソンの金メダリスト高橋尚子氏を、保育園運営などのJPホールディングスは保育士資格を持つ女優の後藤田由紀氏(女優名は水野真紀)をそれぞれ選んでいます。

 

白井氏に関しては、侍ジャパンでのコーチングで培った知見を活かし、「これまでよりも広く柔軟な視点を養い、改めて社会から信頼される企業になれるきっかけ」を作ることが目的とされています。同じくジャニーズ事務所の社外取締役に就任する中井徳太郎氏(日本製鐵 顧問)は「時代に即した企業のあり方、社会と向き合う姿勢づくり」、藤井麻莉氏(弁護士)は「コーポレートガバナンスの体制の強化に向け、大きな推進力」としての役割が期待されています。

5月14日に事務所から発表された「故ジャニー喜多川による性加害問題について当社の見解と対応」という書面を見ても、会社の意思決定はジャニー喜多川氏とメリー喜多川氏の2名が中心になっていたことを認め、企業のあり方について問題意識を持っていることが伺えます。ただ、経営体制をチェックする人物を据えたとしても、社外取締役に就任する3者全員が企業の経営体制に精通しているわけではなさそうです。どの程度の実効性が担保されるかは今後の活動次第といえるでしょう。

 

今回の事件で経営の見直しを迫られている会社はジャニーズ事務所に限りません。パナソニックホールディングスが26日に開いた株主総会の質疑応答では、株主からジャニーズのタレントが出演する番組のスポンサーの降板を求める意見や、国際的な事業展開においてマイナスになるとの声がありました。同社の広告や宣伝活動にジャニーズのタレントが直接起用されたのは9年前が最後ですが、同社は「関ジャニ∞」のメンバー丸山隆平さんが司会を務める番組「サタデープラス」(毎日放送)のスポンサーとなっています。パナソニックの森井執行役員は、性加害問題はあってはならないことと述べたうえで「亡き事務所の社長の責任であり、タレントはむしろ被害者」との認識を示しました。

 

今回の性加害問題においては、早い段階から事件を報じてこなかったメディアが批判され、告発した性被害者に対する二次被害(セカンドレイプ)も指摘されています。性被害は当人だけでなく、家族や支援者などにとっても受け入れがたいことでしょう。深刻な被害を受けたことに対するショックから問題を直視することを回避したり、自らを納得、安心させるために被害を受けた人にも落ち度があったという考え方に陥ったりしてしまうことがあります。

そもそも問題となっている性加害行為そのものに思いを巡らせることは、精神的な負担や苦痛になり得ます。しかしこれまでジャニーズ事務所に所属したことがある方々、現在事務所に所属し仕事をしている方々、これから事務所で夢と覚悟をもって活躍しようとしている方々がよりよい人生を歩むためにも、まずは会社が社外取締役の起用という新たな取り組みを通じ、真摯な一歩を歩みだすことが必要だと考えます。

 

【参考記事】

27日付 朝日新聞朝刊 7面『ジャニーズ問題「タレントは被害者」パナHD株主総会、スポンサーめぐり

29日付 朝日新聞夕刊 1面『株主総会の季節 「コロナ後』、模索する企業

【参考資料】

2023年5月26日 ジャニーズ事務所『「心のケア相談窓口の開設」「外部専門家による再発防止特別チームの設置」「社外取締役」についてのお知らせ』

2022年6月24日 NHKみんなでプラス「【性暴力を考える】親や友人からのセカンドレイプ 性被害者の二次被害を防ぐためには」

伊藤靖史・大杉謙一他著「会社法 第5版」、2021年3月25日、有斐閣

藤森和美・野坂祐子編「子どもへの性暴力-その理解と支援」2020年10月30日、誠信書房