東京レインボープライド パレードで当事者たちの希望を見た

4月22日から23日にかけ、東京都渋谷区にある代々木公園で東京レインボープライドが開催されました。このイベントは性的マイノリティが差別や偏見にさらされることなく、自分らしく前向きに生きていける社会の実現を目指すもので、日本では1994年に初めて開催されました。

プライドは英語で「誇り」を意味しますが、今日では性的マイノリティのパレードという意味も持つようになりました。世界中で開催されており、最も大きいサンパウロでは一回に300万人が参加するそうです。筆者は両日とも参加し、23日にはパレードにも加わりました。

代々木公園を出て渋谷駅へ向かう様子

23日筆者撮影

プライドパレードはつまるところデモ行進にあたります。デモ行進は公の前で自分たちの意思を主張する行動ですが、現代社会でその意義は薄れつつあります。アメリカの社会学者ジョエル・ベストによると、以前のデモはメディアにそれを取り上げさせ、一般の人や政治家、行政に声を届けることが狙いでした。声を届ける方法がそれくらいしかなかったためです。そのため、より多くを動員して大々的に報道させることが大切でした。

誰でも気軽に情報を発信できるSNSの普及までは、世の中の中心課題は大手メディアによって決定されていました。そのため、新聞やテレビなどで今いちばん大切なテーマを簡単に理解することができ、最終的に社会問題が解決するといった流れが見られました。しかし現在では情報の流れが大きく変わりました。各々が自分にとって必要な情報だけを集めることになったからです。

パレードが行われた4月23日のツイッターのトレンドワードを見てみると1位は「艦これ10周年」、2位は「ジャニーズWESTデビュー9周年」でした。もちろん、艦これにしてもジャニーズWESTにしても、ただその周辺が盛り上がっていたというだけで、無関心な人には全く興味がなく、国民的な盛り上がりがあったとはいえません。それに対して、日曜日で人出の多い渋谷や原宿の大通りを虹色の服を着た人々が大挙して歩いていたパレードに関連するワードが50位以内にも入っていないというのは気になります。

パレード自体は大規模であっても、当事者や賛同者が盛り上がっているだけで、その外側にいる人達には届いていないのかもしれません。当日渋谷でショッピングをしていた女性は「なにかイベントが開かれているんだなと思った。特に調べようとは思わない」と言っていました。意見を主張する場としてのパレードの価値は年々低下しています。

レインボーパレードのロードマップ(公式HP より)

https://tokyorainbowpride.com/parade/

ただ、交流の場としての価値は不変です。東京レインボープライドは両日合わせて23万人を動員しました。普段は性的「少数派」であり、孤独な思いをすることも多い人々にとって、同じ立場、境遇の仲間が何万人もいるということを肌身で実感できるのは極めてまれな、重要な機会です。筆者と一緒にパレードに参加したゲイの男性も「これほど多くの人が参加しているとは思っていなかった。励まされたような気持ちになった」そうです。日頃SNSで交流を重ねる当事者は多くいますが、リアルでないと実感できない連帯もあるのです。

パレードを通じ多くの人と交流することができました。中学生の時ゲイであることを理由にいじめられ不登校になった人、SNSで理解者を増やす運動に取り組むも心無いリプライに傷つき心療内科に通院している人。いまだに性的マイノリティに対する理解は不十分なままです。それでも、年々性的マイノリティが社会のなかで当たり前の存在になっていったのは、間違いなく彼らの粘り強い努力の賜物でしょう。SNSで活動している方のイベントに参加しての感想は「僕にできることはSNSの発信くらい、このイベントでまた元気をもらった。僕も変わるまで続けないとね」というものでした。彼らを勇気づけるパレードが今後も続いてほしいという願いと、続くということは社会が変わらないことだという現実と。ジレンマに気づかされた取材でした。

 

 

参考資料

東京レインボープライド 「レインボープライドについて」

https://trponline.trparchives.com/pride-parade/

Trend Calendar 2023年4月23日のトレンドワード

https://jp.trend-calendar.com/trend/2023-04-23.html

 

参考文献

『社会問題とはなにか なぜ、どのように生じ、なくなるのか?』

筑摩選書 ジョエル・ベスト

『デモのメディア論―社会運動社会のゆくえ』

筑摩選書 伊藤昌亮