今月3日、旧香川県立体育館が解体に向けて動いていると報じられました。この施設は世界的建築家である丹下健三氏が設計したことで知られ、長年県民から親しまれていました。東京五輪が開催された1964年に開館し、同時期に丹下氏により建てられた国立代々木体育館と同じく船の形をしていたことから兄弟作と呼ばれていました。代々木体育館は2021年に国の重要文化財に指定され、現在でも球技やコンサートの会場などとして使われていますが、旧体育館は改修が難しいと判断され、2014年に閉館した後は建物を残すか解体するか、存廃をめぐる議論が続いてきました。
旧県立体育館 読売新聞オンラインより
小学生の時、ミニバスケットボールをしていた筆者はよく行っていました。ミニバスに熱中していたものですから幼い頃の思い出のほとんどに旧県立体育館が絡んでいます。また、中高校生で怪我をして県立中央病院に通院したり、居合道の昇段審査で県立武道館に行ったりする際には、必ず体育館が目に入りました。小中高を通して筆者の青春の中心にどっしりと位置している建物でした。
旧体育館の閉館に伴い、瀬戸内海に面するサンポート高松に新体育館が建設されています。ドーム型のアリーナが特徴的で、近未来的なフォルムからはモダン建築の代表作であった旧体育館へのリスペクトが感じられます。また、新体育館は中四国最大の収容人数を誇り、香川県が中四国を牽引していく決意が伺われます。思い出の場所がなくなるのは寂しいですが、盛者必衰の理です。新体育館が県内に住む若者の青春を形作っていく場になってほしいと思います。
新アリーナの予想図 香川県庁HPより
筆者が上京して以来4年間過ごしてきた東京・中野駅周辺も大きく変わろうとしています。中野駅は駅舎の上に、駅ビルや南北の通行が容易になる通路の建設が進んでいます。中野区役所は区立体育館の跡地に移転が決まり現在建設中です。また、中野を象徴する建物である中野サンプラザは今年7月20日での閉館が決まっており、跡地には「NAKANOサンプラザシティ」と呼ばれる大型ビルが建設される予定です。
解体が決定している中野サンプラザ(2月6日筆者撮影)
工事中の中野駅には巨大なクレーンが何本も使われている(1月19日筆者撮影)
こうした大きな変化は日常の風景にも及んでいます。キャンパスの隣にある「囲町」では、もともとあった住宅がすべて取り壊されて更地になり、今後は遊歩道が建設される予定です。徳川五代将軍綱吉の時代に犬を保護する犬屋敷が作られたことに由来する歴史ある地域でした。昨年の夏頃から工事が始まったのですが、振動や音が大きく近隣に住む友人は悲鳴を上げていました。中野駅からのいつもの通学路、これまで当たり前だった光景がたちまちなくなってしまうことにどこか虚しさを感じてしまいます。
変わるのは建物や町だけでなく人とのつながりも同様です。筆者は現在大学4年生、諸々の事情からもう少し大学生を続けますが、同期で入学した友人はこの春に全員が卒業します。遠く離れた地に赴任する仲間もおり、今後会う機会は少なくなるでしょう。なかでも共に助け合いながら一人暮らしをしてきた上京組と離ればなれになるのは悲しいものがあります。
しかし、嘆いていても仕方がありません。過度に懐古的になるのではなく変化や進歩を前向きに受け入れなければなりません。思い出の場所や生活環境が大きく変わる時期だからこそ、その大切さが身にしみてわかります。この街や友人たちとの別れにはもう少しだけ時間の猶予があります。限られた時間でできる限りの思い出を作っていきます。
参考記事
読売新聞オンライン「「船の体育館」解体へ」
https://www.yomiuri.co.jp/local/kagawa/news/20230203-OYTNT50050/
香川県町「こうなる!新アリーナ スポーツとにぎわい創出の拠点に」
https://www.pref.kagawa.lg.jp/kocho/kagawa_topics/kurashi202108.html