宗教から見るアメリカ大統領選

アメリカ大統領選の本格的な幕開けとなる民主、共和党各党の候補者選びが1日、アイオワ州党員集会で始まりました。民主党はクリントン前国務長官(68)が勝利宣言をしましたが、サンダース上院議員(74)との支持者獲得率の差は1ポイント未満でほぼ互角の戦いでした。共和党は、保守強硬派のクルーズ上院議員(45)が、実業家のトランプ氏(69)とルピオ上院議員を抑えて勝利しました。

日本ではあまり馴染みのないことかもしれませんが、両党の候補者選びは、立候補者が掲げる政策に加えて、それぞれの人となりや支持基盤、さらには宗教的な背景も大きな影響を与えます。例えば共和党では、過激な発言で一躍注目を浴びたトランプ氏でさえも、福音派の支持を多く集めたクルーズ氏には勝てませんでした。クルーズ氏は、アイオワ州の全99郡の牧師に指示を求めるなど、福音派に焦点を当てて活動してきました。福音派の三つの核として知られるのが、人工妊娠中絶反対、同性婚反対、信教の自由の確保ですが、クルーズ氏はこれに取り組んできた実績を評価されたとも見ることができます。

候補者選びが7月に終われば、文化的多様性に消極的な共和党と積極的な民主党、という対立構造も顕著になってくるものと思われます。2012年の共和党ロムニー氏と民主党オバマ氏の戦いの際にも、人工妊娠中絶に関する発言は非常に注目されていました。例えばロムニー氏は、自らが大統領に就任した場合、人工妊娠中絶関連法案の提出についてはホワイトハウスの優先政策課題としては考えていないと発言したことがあります。ところが翌日には、自分は生命の尊厳を重視する大統領になると述べた上で、就任して直ちに講ずべき措置は、人工妊娠中絶関連の補助金の停止や予算の阻止と述べ、前日の発言をひっくり返したのです。このような宗教が絡むようなテーマは、女性票の獲得で大きな影響を与えるため、支持基盤に配慮した慎重な発言を多く見ることができます。

日本ではあまり体験することのない文化的な対立は、これから約1年間、全米を股にかけて行うアメリカ大統領選を見る際のちょっとしたスパイスになるかもしれません。今年の夏には、日本でも参院選が行われます。初の18歳選挙権の行使が注目されていますが、日本の選挙で精一杯とならずに、いつもと違う視点からアメリカを横目で見ておくのも、面白いかもしれませんね。

参考記事:3日付朝日新聞朝刊(東京13版)「米大統領選 指名争い開幕」他関連面

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