仙台育英高校の甲子園初優勝。本日の読売新聞と朝日新聞の朝刊では、1面で大きく扱われています。それほどまでに高校野球が世間に与える影響は大きく、「白河の関越え」の悲願がどれほどのものだったかが分かります。
昨日の仙台駅は号外待ちの人々でごった返していました。通信社でSNSの監視アルバイトをしている筆者は、Twitterからの情報でその様子を逐一確認していました。最初に西口で集まっていた人だかりは、後に配布先が東口だと分かると、一斉に東口へ。号外を求めて仙台駅を横断する熱狂的な人々の流れは混沌というほかありません。年配者だけでなく、今時の格好の若い男女が大勢いたことにも驚かされました。
日本新聞協会が2021年12月下旬に公表した同年10月時点のデータによれば、スポーツ紙を除く一般紙97紙の総発行部数は、前年比5.5%減。20年前は4700万部、10年前には4400万部を数えたものの、今や3000万部割れが目前となる今日です。若者の新聞離れが騒がれる中、これほどまでに号外を求める人々がいることは、にわかに信じられません。
デジタル版でも号外は読むことができます。セブンイレブンのマルチコピー機で電子号外をコピーすることも簡単で、A3カラーでも100円程度で済みます。
にもかかわらず、通販サイト「メルカリ」で「号外 仙台育英」の検索をすると、実に343件がヒット。一番安くて300円から2999円で今回の号外が売買されていました。相場は1000円前後のようです(いずれも本日17時現在)。「記念に1部いかがですか」「2部でもお求めでいただけます」といった出品者のコメントも添えられています。
突発的な事件、事故、災害やスポーツの試合結果など、世間の関心度が高いと判断されるニュースをいち早く伝えるために、街頭で配布される号外。本来の目的である「知るため」の号外が、「記念のため」の号外に変化しつつあると考えます。それを証拠にインスタグラムでも、甲子園球場を背景に撮影した号外の映像が、数多く投稿されていました。近年では新元号「令和」の発表や、大谷翔平選手のMVP選出を伝える号外は、今回のように多くの人々を集めたように記憶しています。
思い返せば筆者が初めて手にしたのは、昨夏、新聞社のインターンに行った際にお土産としてもらったものでした。オリンピック選手の金メダル獲得を讃えるもので、1面は柔道女子78キロ級の浜田尚里選手、2面は柔道男子100キロ級のウルフ・アロン選手の写真が大きく載っています。1年経った今でも、大切に保管しています。歴史の教科書の一部のような感覚です。
先月から今月にかけて各新聞社は、「大谷翔平選手の2桁勝利、2桁本塁打」「安倍元首相の銃撃事件」「羽生結弦選手の引退宣言」「広島原爆の日」で号外を出しています。いずれも記憶に鮮明に残る歴史的な事柄です。
「普段、新聞読まないのにね」。アルバイト先の記者の嘆きが印象的です。来年から新聞社で働く筆者にとって、号外といつもの新聞との落差は考えなければならない課題かもしれません。デジタル化が進む令和の世でも、号外を求める人々が数多くいるのですから。
それは、新聞の揺るぎない信用と、手にとって形に残せる報道の意義が認められている証拠かもしれません。喜ばしい歴史的瞬間を見聞きしたら、「号外待ち」をしてみてはいかがでしょうか。
参考記事:
23日付 読売新聞朝刊 埼玉14版 1面 「仙台育英V 甲子園 東北勢初」
23日付 朝日新聞朝刊 埼玉14版 1面 「仙台育英V 東北勢初」
参考資料:
東洋経済オンライン「昨年も180万部減、全然止まらぬ「新聞」衰退の末路」