◆「見た目だけではわからない」妊娠初期の女性でも安心な優先席
仁川空港からソウル市内へ向かう電車で、一際目立つピンク色の座席にぬいぐるみが置かれていました。これは妊婦の女性のためだけに設けられた座席。
もちろん、日本と同様の優先席(妊婦やお年寄り、子持ちの方、体の不自由な方のための席)も車内の端にあります。これらの既存の優先席に加えて、更に妊婦を保護するため、妊婦用のピンク色の座席が設置されています。
なぜぬいぐるみがあるのかと韓国人の友人に尋ねると、この取り組みはまだお腹の出ていない妊娠初期の女性から、満期の妊婦までを配慮しているといいます。妊婦かどうかは、お腹の大きさでしか判断することができません。ぬいぐるみを抱えることで、たとえ見た目では妊婦かどうか分からなくとも、心置きなく優先席に座ることができます。出産率の低さが社会問題化している韓国において、妊婦をみんなで守ることが求められています。
◆使用率の低さ 優先されるべきは誰か?
一方で、席の空きが非効率だという意見もあります。他の席が全て埋まり、車内が大勢の人で混みあっていても、この席だけ誰にも座られずにポツンと空いているという光景をよく目にします。どうせ誰もいないなら、高齢者が座ったほうがいいのでは?とも思うのですが、なかなかそうもいかないようです。
知り合いの韓国人男性は、たとえ空いていたとしても絶対にこの席には座らないといいます。女性を象徴するピンク色の座席。高齢の男性であっても座ることは躊躇われます。座っていいのは、妊婦の方だけという暗黙の了解。もはや優先席というより、「専門席」として使われています。やはりここまで妊婦用の席として目立っていると、妊婦以外の人が使用することには抵抗があるのかもしれません。
お腹の出ていない妊婦さんのように、見た目だけでは分からないけど、実は優先席を必要としている人は他にもいます。筆者の友人は、満員電車の中で立っているのも辛いほどの腹痛に襲われたとき、「優先席に座らせてほしい」「誰か席を譲ってくれないか」と強く思ったそうです。若者だとしても、障害を持っていなくても、どうしようもなく具合が悪くなることはあります。それでも、高齢の方を差し置いて若者である自分が優先席に座ったら周りから白い目で見られるだろうと、倒れそうになりながらも激痛を我慢するしかなかったそうです。
一目見ただけでは分からない障害を持つ人もいます。多様な生き方が見られるようになった現代社会において、人々の属性はより複雑化していて、「男と女」、「若者と高齢者」、「健常者と障がい者」といった単純なカテゴライズでは収まらなくなっているのかもしれません。
席の譲り合いは、思いやりの表れです。目に見えて分かる人以外にも、必要な人が使える席になればいいなと思います。
参考記事:
22年6月14日付 読売新聞オンライン「優先席ではなく『専用席』として定着、札幌の地下鉄では混雑時でも空席目立つ」