「たった1票増えたところで当選者は変わらない」「砂山から砂粒ひとつとっても砂山のままだよね」
この言葉を聞いたのは、大学1年の計量政治学に関する授業の時でした。「経済的に考えたら行く意味なんかないのに、選挙に行くのはなぜだろう?」という問いかけに続けて教授が放った言葉に、毎回投票している私でさえ納得してしまったことを思い出します。
今回の参議院選挙。私は投票に行くつもりで、比例区と地元選挙区の候補者、それぞれの公約を見比べ、投票先を決めました。8日付の朝日新聞にも、色々な思いを抱えた人が投票に行っていることが載っていて、なんだかうれしくなりました。
私も、わからないことを自分なりに調べ、1時間弱かけて選びましたが、それでも、疑問と不安が残っています。どの政党、候補者にも賛同できる点とできない点があるうえ、知識不足故に、自分の見解や投票先に自信が持てないからです。正直に言って、最後の決め手は印象でした。情けなく感じると共に、この時間に意味はあったのだろうかと考えてしまいます。
「投票しても、社会にも、自分にも、利がない」
10月27日の朝日新聞に掲載されていた、NPO法人ドットジェイピー学生代表・細谷柊太さんの周りには、そう思っている人が多くいたそうです。このように、去年の衆院選挙でも、若い世代の投票の意味を疑問視する声があったことがわかります。それもそのはずで、昨年の衆院選では、30歳未満の有権者の投票が占める割合は、わずか8.6%でした。投票率が上がれば解決するかと言われればそうでもありません。今現在、30歳未満の人口は日本人全体の26%、全有権者中ではたった13.1%しかいないのですから。
他の世代が我々若者のことを考えていないわけではないことは承知していますが、数字を見る限り、利が無いと感じることに頷けてしまいます。つまり、若者の声が反映されにくい原因は、投票率が低いからではなく、少子高齢化による世代人口の差にあります。これは、現行の選挙形態をとる限り解消されない問題なのではないでしょうか。
私は、現行の選挙制度を変える必要があると考えます。そこで、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン氏が提案している「クアドラティックボーディング」という投票方法を紹介します。
この投票方法の特徴は、1人1票ではないこと、そして、必ず複数人に投票しなければならないことです。まず、投票者は1人99ポイントを持っていて、1ポイントで1票を投じることが出来ます。しかし、2票以上を同じ候補者に入れる場合、その乗数のポイントが必要になります。例えば、2票同じ候補者に投じるであれば2の2乗で4ポイント。3票であれば、3の2乗で9ポイント必要になります。
持ち点は99ポイントなので、同じ候補には最大でも9票、つまり81ポイントしか入れられません。よって、残りの18ポイントは他の候補者に入れる必要があります。候補者を1人に絞りにくい人はもちろんですが、いつも同じ政党に入れている人は、他の候補者の政策を確認するきっかけになるので、いずれにも有益な方法だと言えるでしょう。
また、この手法の面白い所は、1人の候補者に票を投じる事よりも票を分散させた方が、票の総数が増えることにあります。例えば、1人の候補には81ポイント使って9票しか入れることが出来ませんが、9人の候補者に3票、つまり9ポイントずつ使えば、票の総数は3票×9人で27票投じることが出来ます。両方とも使った持ち点の総数は81ポイントで同じなのに、3倍の差が生まれるのです。応援している政党があれば、その政党に9票を投じるでしょう。しかし逆に、応援したくない政党があればそれ以外の党に振り分けることで、当選を阻止することも出来るのです。
「世代別選挙区を作る」「年代ごとに票の価値を変える」など、巷で言われるような現実味の薄い手法に対する批判はもっともですが、少なくとも現行の制度では、10代、20代に選挙に行く意味がないと思われても仕方ありません。若者の投票率をあげること以外に、選挙制度をはじめとした現行制度の見直しも議論していただきたいものです。
参考記事:
2022年7月8日 朝日新聞朝刊(多摩13版)20面(地域総合)「あなたはなぜ一票を―政治へ託す思いさまざま」
2021年10月27日 朝日新聞デジタル 「候補者に共感しても『選ぶことが怖い』 若者が投票に行かないわけは」
参考文献:
・人口推計 2022年(令和4年)6月報 (stat.go.jp) (2020年7月8日取得)
・成田悠輔著『22世紀の民主主義』 SBクリエイティブ株式会社