労働の場でのジェンダー平等 強いひと押しを

土曜日の日経新聞朝刊、紙面をめくると気になる文字が目に飛び込みました。「女性 仕事も育児も『M字』解消進む」。M字カーブとは、30代に働く女性が減少し、就業率が大きくへこむ現象をさします。それが、最新のデータでは35歳から39歳の働く女性の比率は78.2%5年前から5.2ポイント上昇しました。30代女性全体の就業率も8割を超え、極端な落ち込みはなくなったといいます。

ですが、取り組むべき課題もあります。いまだに男女で賃金差が埋まらない点、キャリアを断念する女性が少なくないという点です。

改善された労働人口には非正規雇用もカウントされています。男性の65.2%が正規雇用なのに対して女性の正規雇用の割合は、42.4%にとどまり、41.5%が非正規雇用です。また、女性の非正規雇用の割合は20代よりも30代の方が11.3ポイント高く、女性が出産を機に元の職場を離れ、その後はパートタイムで仕事をする割合が非常に高いことを示しています。

非正規雇用と正規雇用では、賃金待遇に差があります。男女間での年間104万円の賃金差には、こういった事情が潜んでいます。G7の中で男女の賃金差が最大というジェンダーギャップの根の部分ではないでしょうか。

この賃金差には管理職の割合の低さも関係しています。女性の役職登用が少ない。これは昇給スピードが男性よりも鈍いということとつながっていると考えられます。

育児出産によりキャリアが中断されることで昇進が阻まれることが実際に浮き彫りになった調査もあります。PRタイムズが実施したアンケートでは、「男性と比較すると女性管理職の比率が少ないのは何故だと思いますか」という設問に対し、回答者の実に8割が結婚や出産をすると管理職として働きづらい雰囲気が職場にあるから、を選択しています。

さらに一歩、ジェンダー差を是正するにはどうするべきでしょうか。

まずは働いてきたキャリアやスキルを正当に評価し、正規職員として女性を登用する環境を整える必要があります。さらには背後に潜む男女の教育格差を縮めるために積極的な就業スキル支援も必要になります。

女性の役職登用を行うために具体的な数値を策定する、リモートワークとの併用で職場に参加できる、などきめ細かい対策が求められます。非正規雇用者の割合の是正は、職業訓練を充実することで達成できるはずです。求人が多いITエンジニアの育成など「手に職をつける」支援が望ましいでしょう。キャリアアップを、費用面で阻まない対策が必要です。

筆者は大学四年次の今だからこそ思い出す言葉があります。高校時代、「結婚したあとにパートをするために司書資格はとった方がいいよ」とクラスメイトから何気なく語り掛けられました。

仕事は、大学卒業後にキャリアを決定し、長く続けられるのが当たり前だと思いこんでいました。だからこそ、「結婚のために新卒で就いた仕事を辞めた後に、どうするか」という備えが必要なことに戸惑いました。新卒で働く仕事よりも、結婚後どう生きたいかを考えて動くといいよ。そう言い切る人に多く出会ってきました。今もその言葉は自身の人生を決める場面で頭を巡ります。当たり前に感じる生活の中で、機会を損失している女性は少なくないのではないでしょうか。

「女性は出産をするので、確実に一度最前線から外れる。その時点で男性よりも生産性が低いという欠点がある」。そういった過激な内容のSNS投稿も目にします。

このような日常を目の当たりにする中で思います。生来の身体機能として備わる出産などの事情を前提に入れずに動く社会は、おかしい。

「出産をするのなら、女性がまず初めから労働市場に参画するな」。そうなれば、極端な話ですが労働人口の実に44.4%が失われることになります。男性の3828万人に対して女性の労働人口は3058万人。軽視されるべき存在ではありません。

人的資本の視点、ESG投資の浸透など社会は利益追求以外での取り組みに注目しています。女性の参画が増えれば労働人口が増え、経済を底支えする力が増す。働き方に変化が起きそうな時期だからこそ、女性の労働環境を変えていく意思を持ちながら動いていきます。

【参考記事】

5月28日付 日本経済新聞朝刊 東京12版 4面 女性仕事も育児も「M字」解消進む

5月21日付 朝日新聞朝刊 東京14版 1面 男女の賃金差 開示義務 首相表明 300人超雇用の企業