焼き鳥居酒屋チェーンの鳥貴族は、明日から4年半ぶりの値上げに踏み切ります。飲み物含め全品税抜き298円だったのが319円。これは相当大きな経営判断です。というのも従来、同社は美味しい料理と酒が「安く」飲み食いできることを最大の売りにしてきました。この決断は吉と凶どちらに転ぶのでしょうか。
会社の歴史を振り返ります。創業は1985年。現在も鳥貴族HDの社長を務める大倉忠司氏が大阪の近鉄俊徳道駅前に1号店を出店しました。89年以降は価格を「全品280円」に揃えて、最近まで据え置き。店舗数は98年に10、08年に100、11年に200、15年に400と鰻上り。18年のピーク時には660店舗を数え、中期経営計画では、21年の国内1000店舗と、22年に米ロサンゼルス進出を目指す旨発表していました。
「規模の経済」を生かして大躍進したトリキが壁に直面し始めたのは17年の秋。税抜き価格を18円上げたところ、既存店売上高が22ヶ月連続で前年割れ。社長は「値上げの影響ではなく出店戦略のミス」が主要因だと話しますが、何にせよコロナ禍も相まって最終赤字が3年続きました。
ここで再度の値上げという判断、筆者は大丈夫だと予想します。根拠は3つあります。1つ目は、飲食業界どこも値上げしていて、割安感や比較的な優位性は揺るがないことです。格安居酒屋チェーンに絞っても、笑笑、魚民、庄や、甘太郎、全て上がっています。値上げする商品の種類数や上げ幅、タイミングに多少の差はありますが。強敵ワタミに至っては、コロナ禍の営業規制に耐えかねて焼肉店への業態転換を進めています。業界全体の流れに逆らって値下げする店が出現しない限り、現在の地位は維持できます。
2つ目は、コロナ禍の収束に伴って客の増加が見込まれるので、値上げの悪影響が薄れることです。飲食業界を2年間苦しめてきた疫病はようやく落ち着いてきました。マスク信仰や対策緩和の慎重論は未だ根強いものの、鳥貴族がターゲット層とする若者は感染リスクをあまり気にしません。クラブやサークルで大規模な宴会をする文化こそ消滅しましたが、3〜4人で飲む慣習は戻ってきています。4人席が多い鳥貴族は受け皿になりやすいでしょう。
3つ目は「値上げ分を従業員の昇給に回す」と社長が明言していること。急拡大を遂げた飲食店は、料理の質の一定化に加え、人材集めで苦労を強いられます。大きなビジネスを回し続けるには、愛社精神が強く優秀な社員が長く働いてくれることが欠かせません。来年の総合職の大卒初任給は、トヨタ20.8万、SMBC23万、三菱商事25.5万に対し、鳥貴族は26.1万。これが更に上がるとなれば絶対に人は集まるはずです。給料が貰えるなら、労働環境の多少のキツさも耐えられます。
鳥貴族は今後どのような成長曲線を描いていくのでしょうか。まさか「いきなりステーキ」や「東京チカラめし」のような転落に至るとは思いませんが、中計で掲げた1000店舗や海外進出はいつ達成できるのか。筆者は足しげく通うことで、トリキの成長を応援したいと思います。
参考資料:
26日付 読売新聞朝刊(京都13版)9面「鳥貴族 4年半ぶり値上げ」