「火事だ!起きてください」。そんな声が外から聞こえてきたのは、筆者が寝床に入って間もなくでした。最初は誰かが大声で話しているくらいにしか感じませんでした。声が大きくなり、気になってベランダに出ました。足下には避難を呼び掛けるご近所さんの姿。消防車の赤色灯が続々と集まってくるのが見えます。血の気が引き、足がわなわなと震えました。
一体どこで。火災報知器が鳴っていないということは、このマンションからではないのか。とにかく逃げなければ。日中使っていたトートバッグとコートを手に玄関に急ぎました。「マスクを着けなきゃ」と包装されたマスクを握り、非常用階段で下りました。外に出るとすぐ近所に住む女性から「大丈夫ですか」と声を掛けてもらいました。聞くと、飛び火してもおかしくない位置にあるマンションからの出火。消火活動はすでに始まっていて、安全を確認できるまで避難しているとのこと。焦げ臭くはありましたが、煙は充満しておらず消火活動自体は約40分で終わりました。延焼も免れ、部屋に戻りましたがその日はなかなか寝付けませんでした。
新たな被害は抑えられたものの、風向きや湿度によっては燃え広がっていたかもしれない。火事の恐ろしさを目の当たりにし、自分と周囲の命を守る行動を事前に考えておかなくてはと痛感しました。
政府広報オンラインを見ると、令和2年1万564件の住宅火災が起き、899人が亡くなっています。そのうちの半数近くが病気や身体の障害、熟睡などによる逃げ遅れです。今回火事に気付いた近隣の人が大声で呼び掛けてくれたことで、火元になっていない建物でも気付くことができました。火災の規模に関わらず、周りに気付いてもらう必要があります。起こすことに遠慮はいりません。
また2年続くコロナ禍のせいで、ほぼ無意識にマスクを手に取ってはいましたが、しっかりと使えば口鼻を覆い煙から喉や肺を守れたかもしれません。もちろん一酸化炭素を防ぐ効果はありませんが、目の付きやすい場所にマスクがあるというのは、気が動転しているときでも身を守ることに繋がります。実際その場に避難していた約30人のほとんどがマスクを着けていました。
地震が起きたときのため枕元に置いていた靴下と靴も、避難までの時間短縮に繋がりました。避難経路に物を置かない、倒れないように固定するなどの対策も経路確保の一助となります。
最後に22年前消防庁が作成し、その後リニューアルされた「住宅防火いのちを守る10のポイント―4つの習慣、6つの対策―」をご紹介します。
<4つの習慣>
・寝たばこは絶対にしない、させない
・ストーブの周りに燃えやすいものを置かない
・こんろを使うときは火のそばを離れない
・コンセントはほこりを清掃し、不必要なプラグは抜く
<6つの対策>
・火災の発生を防ぐために、ストーブやこんろ等は安全装置の付いた機器を使用する
・火災の早期発見のために、住宅用火災警報器を定期的に点検し、10年を目安に交換する
・火災の拡大を防ぐために、部屋を整理整頓し、寝具、衣類及びカーテンは、防炎品を使用する
・火災を小さいうちに消すために、消火器等を設置し、使い方を確認しておく
・お年寄りや身体の不自由な人は、避難経路と避難方法を常に確保し、備えておく
・防火防災訓練への参加、戸別訪問などにより、地域ぐるみの防火対策を行う
この冬、全国各地で火災のニュースを目にします。今日も広い範囲で乾燥注意報が発令されています。地震や水害と同じく、火災もいつどこで起こるか分かりません。在宅勤務が広がるなか、配線器具からの発火も増えています。自分が火元にならないとは言い切れません。10のポイントを再確認してみましょう。
参考記事:
23日読売新聞オンライン「怖かったが必死だった…住宅密集地で煙、中3の3人が連係プレーで延焼防ぐ」
NHKNEWSWEB「在宅勤務拡大 配線器具の発火事故に注意を NITE」