ロシア対ウクライナ 戦争の行方は

(※以下は、日本時間23日20時頃に執筆した内容です)

ついに戦端の火蓋が切られました。ロシアのプーチン大統領は21日、ドネツクとルガンスクの独立を承認する大統領令に署名したうえで、同地域の平和維持を目的とするロシア軍の進駐を公式に指示。米国のバイデン大統領は「Beginning of a Russia’s invasion」だと指弾しました。

戦争の始め方については、様々な憶測が流れていました。ウクライナ全土にサイバー攻撃をかけて通信網を麻痺させたうえで、首都キエフを空襲する説。陸軍力を以てドニエプル川以東地域を一気に制圧する説。盧溝橋事件のように、些細な事件を口実に戦線を拡大させる説。国際政治学ゼミに所属する筆者も、様々な軍事作戦の可能性と開戦のタイミングについてゼミ仲間と度々議論していました。

結局、プーチン大統領は、中国に配慮したのか、北京五輪が終わる2月20日までは軍を越境させません。翌21日に、テレビで演説を行い大統領令に署名するという手順を踏んだうえで、軍を進駐させるやり方を選択しました。一応、ロシアなりに大義名分や体裁に配慮したソフトな手法だと言えるでしょう。実際には、8年前から非公式に何度も越境行為を繰り返していますが。

欧米各国はウクライナ侵攻を防止すべく、これまで全力を尽くしてきました。特に、ロシア軍の部隊の移動やクレムリン内部の意思決定など、掴んだ情報を全部すぐにバラしまくる米国の情報公開作戦は、プーチン氏を相当嫌がらせ、迷わせたものと思われます。氏はその気になれば、1月でも12月でも侵攻を決断できたはずですが、米国は驚異的なほど時間を稼ぎ、開戦を先延ばしにさせました。この間、ウクライナは応戦準備をかなり整えることが出来たのではないでしょうか。

次なる注目は、本格的な軍事衝突に至ったり、キエフの政権が転覆させられたりするような出来事に発展するかどうかです。ロシアは、ウクライナをNATO寄りの国家、中立国、自国寄りの衛星国に3分割する計画を練っていたこともあります。欧米は引き続き、外交交渉、経済制裁、広報、ウクライナへの軍事支援など、ありとあらゆる手段を活用してハイブリッド戦争に対抗していくものと思われます。

日本政府も3つの制裁措置を発表しました。独立国を称するドネツク・ルガンスクの関係者のビザの発給停止と資産凍結、輸出入の禁止、そしてロシアの国債の日本での発行と流通を禁止することです。東欧奥地の2地域とは地経学的に距離が遠く接点も少ないことから、制裁の効果は皆無に等しいでしょう。

ロシア本国に対する追加制裁は後日発表されるはず。サイバー攻撃などの返り血を浴びる可能性があるとはいえ、日本はこの暴挙を見逃してはなりません。軍事力で世界地図を塗り変えんとするこの試みを黙認したら、日本の領土防衛も危うくなります。早急かつ効果的なボディブローを期待しています。

 

*追記(24日16時)*

24日、ロシアはサイバー攻撃をかけたうえで、ウクライナ東部・南部・北部への侵攻作戦を開始したようです。ロシアがどんな軍事技術・兵器を駆使して攻めていくのか。ウクライナ軍がどのような抵抗を見せるのか。そして、NATOはどのようなアプローチで事態に介入していくのか。これらの点に注目しつつ、序盤戦の成り行きを注視したいと思います。

(23日付 日経新聞朝刊1面より)