広まるか、妊娠女性に「思いやり」

 

英語で”labor”と言えば、「労働」「(肉体的な)苦労」。その他に、「出産」「分娩」といった意味を持つこともご存知でしょうか。人生における苦痛が男女によって異なることを示す英単語かもしれません。「労働と出産(妊娠)」に苦しむ女性がなお多いことを、昨日の裁判で知りました。

 

妊娠を理由に降格させられたとして、広島市の病院に勤務していた女性が病院側に慰謝料など約187万円の損害賠償を求めた訴訟の差し戻し審です。広島高裁は女性勝訴の逆転判決を言い渡しました。この女性は、妊娠による降格は男女雇用機会均等法で禁じられたマタニティー・ハラスメント(妊娠や出産を理由とした職場での不利益な扱い)に当たると訴えていました。「降格は違法」とする判断を示した高裁は、雇い主の病院側に約175万円の支払いを命じました。

 

 

女性は理学療法士で、副主任だった2008年に妊娠し、希望して業務の負担が軽い部署に移りましたが、移動先で副主任を解かれ、月9500円の副主任手当を失いました。女性は10年10月に提訴しますが、1,2審判決は敗れます。しかし、最高裁は昨年10月に降格は「原則違法」との判断を初めて下します。病院側の「移動先には主任がおり、副主任のままだと指揮命令系統が混乱する」などの主張を、最高裁は「どのように混乱するのか明確ではない上、主任と副主任には序列がある」などと退けました。

 

「マタハラ」という言葉を一気に広めた今回の訴え。厚労省が発表した調査によると、妊娠・出産経験のある女性でマタハラを受けたとする人は正社員で21.8%、派遣社員で48.7%と、非正規社員の割合の大きさが目に付きます。連合のアンケートでは、「妊娠出産がきっかけで解雇や自主退職へ誘導された」人は、マタハラ被害にあった人の11.5%にのぼります。また、育休取得後も働き続けられた女性は正社員で43.1%だったのに対し、非正社員はわずか4%でした。

 

「新しい命の誕生」を、なぜ素直に喜べないのだろう。今回の記事を読んで、率直に思います。社員一人ひとりが気持ちよく働くためには、当然周りのサポートが必要です。特に、派遣社員の女性のマタハラ被害が多いという事実には、驚きです。たしかに、妊娠が仕事に影響を及ぼしてしまうことは大いにあると思います。ですが、だからと言って降格させたり、自主退職を誘導したりするのは妊娠した女性への理解が足りないと思います。まずは、妊娠した女性の相談窓口を設けるなど、小さなサポートから始めるべきでしょう。

 

「女性が働きやすい職場は、男性も働きやすい」と聞きます。社会全体で「働きやすい」職場環境をつくることが今、求められています。

 

参考記事:

18日付 朝日新聞朝刊(大阪14版)38面(社会)『妊娠で降格「違法」広島高裁差し戻し審判決』

同日付 読売新聞朝刊(大阪14版)39面(社会)『妊娠で降格「違法」判決 マタハラ女性逆転勝訴』

同日付 日本経済新聞朝刊(大阪14版)43面(社会)「妊娠で降格 賠償命令 差し戻し審 女性が逆転勝訴」