12月24日に経済産業省と国土交通省から、秋田県沖と千葉県沖の3か所について洋上風力発電に取り組む事業者の公募結果が発表されました。3か所すべてで三菱商事を中心とした企業連合が指定されました。東京電力、再生可能エネルギー事業に力を入れるレノバも応募した中での決定となりました。紙面で大きく取り上げられたわけではありませんが、今後の日本のエネルギー問題を考える上で重要な転換点になると筆者は考えます。
3区域は、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖で、いずれも洋上風力発電の整備を優先的に進める促進区域に指定されていました。各地域とも年間を通して風が吹きやすく、漁業や船舶の航行に支障がないとされています。「風の力で風車を回し、その回転運動を発電機に伝えて電気を起こす」(エネルギー白書)風力発電ですが、洋上型は、風車の支柱を海底に固定した着床式と、風車を海洋に係留して位置を保つ浮体式の2種類あります。今回はすべて着床式で、基本的に水深が0から50メートルの海域に適した手法と言われています。
2012年に固定価格買取制度が施行され、直近では脱炭素を含むエネルギー問題に対処するため、再生可能エネルギーの普及を急ぐ日本。2017年度末の導入量は2253基で出力は約350万kW。未稼働分を含めた固定価格買取制度による認定分は1079万kWで、そのおよそ4割が東北に集中しています。
日本は海外に比べ平地が少なく、複雑な地形であることや、電力会社の系統に余裕がないといった理由で風力発電の設置が進みにくい事情がありました。しかし、再生可能エネルギーの中でも風力発電のコストが低いことから推進策が導入されています。その結果なのか、陸上で発電用の風車を見る機会も多くなりました。筆者の通う大学にも発電用の風車がいくつも立っています。
ではなぜ海の上に?と思った方も多いでしょう。陸上では強い風が安定的に吹く場所を見つけるのが難しかったり、風車の回転による騒音を気にしなければならなかったりします。さらに自然や景観への影響も指摘されていました。一方、洋上の場合、陸上よりも制約が少ないうえ、風力が陸上よりも安定して得られると言われています。ただ、コストの面では陸上よりかさむとされているほか、魚介類や渡り鳥への影響がまだ十分に解明されていないなど、資金や環境負荷に課題が残ります。促進区域に設定されていた秋田県の2か所も鳥類の生息地が近くにあることから、今後の徹底した調査は必須です。
今月10日付の朝日新聞ではプロペラがない風力発電機「マグナス式風車」が紹介されていました。台風など強風下でも発電できるという特徴があり、フィリピン北部のバタネス州で導入されているなど、地域や環境にあった発電装置の開発も進みます。さらに、12日付の朝日新聞では英国が「グリーン産業革命」で洋上風力発電に力を入れている事例も紹介されていました。実際に英国では洋上風力の発電能力は年々上昇しています。2020年時点で陸上風力が電源構成の11%、洋上が13%を占めるなど、英国で注目の発電方法が「風力」と言えるでしょう。
各国が風力発電に力を入れているなかで、日本の電源構成の推移は以下のグラフのようになっており、化石燃料への依存度がいまだに77%に上ります。世界の競争は激しくなる中で脱炭素への道のりは遠そうです。再生可能エネルギーの利用拡大さらに加速しなければなりません。
今後さらに注目が集まると予測される風力発電で注目したいのは東北地方です。洋上風力の競争力強化に向けて設けられた官民協議会によると、2040年までに達成すべき3000万kWから4500万kWの目標値のうち、3500万kWほどは東北、北海道、九州で占める見通しです。直近10年に限ると東北がほぼ半分となるなど、東北が日本の洋上風力発電を引っ張っていく構図が出来上がっています。風力発電はメンテナンス作業などで関連企業の進出が見込まれるなど、地元産業の活性化、ひいては地域経済の発展を目指せるでしょう。今後の東北の動きに大注目です。
参考記事:
10日付 朝日新聞朝刊(兵庫13版)21面「羽なし風力発電機に注目」
12日付 朝日新聞朝刊(兵庫13版)総合4面「村で洋上で 脱炭素へ英国加速」
25日付 読売新聞オンライン 「洋上風力 事業者決まる 銚子市沖 市長 経済波及効果に期待」
25日付 朝日新聞デジタル「銚子沖の洋上風力 事業者決まる 地元は「地域活性の起爆剤に」」
参考資料:
国土交通省 「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」、「千葉県銚子市沖」における洋上風力発電事業者の選定について
経済産業省資源エネルギー庁 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)
経済産業省資源エネルギー庁 2020-日本が抱えているエネルギー問題(前編)