恒大集団。サッカーJリーグのファンなら、聞き覚えがあるでしょう。中国の強豪サッカークラブ広州FC(元・広州恒大)を保有する企業です。豊富な資金力を背景に、海外の一流選手や名監督をチームに招聘し、2013年、15年にはアジアチャンピオンズリーグを制覇しました。その親会社たる巨大デベロッパーが、なんと今、経営破綻の崖っぷちに。今朝の朝日新聞は、その緊急事態を詳しく解説しています。
恒大は広東省深圳に本拠を置く不動産会社。コンパクトな部屋や住環境の良さを特徴とした高層マンションが人気を博し、96年の創業から僅か数十年で急成長を遂げました。グループ主力の恒大地産は、国内280都市で1300以上もの不動産事業を展開。他にも、ヘルスケア事業やインターネット番組など幅広い事業を手がけ、一昨年の売り上げは6010億元(約10.2兆円)まで伸ばしていました。
しかし、近年は、電気自動車の開発や映画製作などがうまくいかず。本業においても、習近平政権が過剰な不動産投機を抑え込む政策を連発したため、事業拡大路線が裏目に出て、負債が積み重なっていったのです。
昨年9月には、債務不履行に陥る可能性があると報道されました。以来、財務健全化のため、保有する物件や土地を投げ売りしたものの、負債は減りません。むしろ、一部の銀行預金が凍結されるなどして、資金繰りは一層悪化。今月13日には、全国各地の本社や支社の前で、マンションや理財商品を購入した人たち数百人が抗議の声を上げ、その様子はSNSで瞬く間に拡散されました。群衆が企業関係者と揉め合ったり、怒り叫んだり、中には失神する人もいるような阿鼻叫喚の現場映像を見ると、深刻さが伝わってきます。
本来、恒大を救済する可能性が最も高いのは、共産党でした。しかし、生殺与奪の権を握る党が助け舟を出す様子はありません。習政権は「共同富裕」をスローガンに掲げており、経済格差の是正に注力しています。固定資産税がないことを利用して、不動産投機バブルでボロ儲けした恒大や出資者が損失を被ることは自業自得。経済全体に大混乱を生み出すハードランディングにならない限り、成り金を救済する必要はない、と考えている模様です。新華社通信や人民日報は、経営危機に関するニュースすら報じていません。
昨秋のアント・グループに対する株式上場中止令と独禁法違反容疑での捜査、今年7月の学習塾禁止令に続く大事件。今回も国策、すなわち習主席の意向が間接的に影響した案件と言えるでしょう。いくら社会主義国とはいえ、この経済政策は過激すぎると筆者は感じます。出る杭を打ちのめす「悪しき平等主義」を押し付ければ、優秀な人材は海外に逃げてしまう。企業も政府の顔色を窺ってばかりでは、大胆な経営戦略を採れません。
アリババは創業者が実質的に追放されたのみで、会社こそ存続できましたが、今回は、中国一の販売実績を誇った大手デベロッパーが、負債総額1.9兆億元(約33.4兆円)を抱えて経営破綻の寸前です。アジアサッカー界の発展に貢献し、サッカースクールの運営を通じて人材育成にも力を入れる企業だっただけに、忍びない気持ちになります。
この先1週間が正念場。窮地に陥った恒大がどう足掻くのか、注視したいと思います。
参考資料:
16日付 朝日新聞朝刊(大阪14版)3・7面「中国不動産大手 危機」
中国恒大の債務危機、怒る投資家の抗議活動が国内全土に広がる(ブルームバーグ通信)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-09-13/QZDELDT1UM1401
恒大,真危矣!(胖兔财经)
https://mp.weixin.qq.com/s/3-aAm0vRmuCFgGhM7MVocQ