「さっきバスで一緒だったでしょ」。金髪の女性カメラマンが、お土産ショップに並ぶ男性に英語で話しかけていた。海外から来た記者は、専用バスかタクシーでしか移動を許可されていない。
ここは東京ビックサイト。五輪期間中は報道・放送センターとして機能している。報道関係者や運営スタッフ、一部のボランティアのみが入場を許可され、本人確認と手荷物検査の上で入場できる。
外国の報道関係者には15分の行動制限が課されるなど様々な制約があるが、報道センター内部は英語が飛び交い、まるで海外にいるかのような感覚に包まれた。
■1600円のハンバーガー
20日、報道センター内の食堂で提供されたハンバーガーを「ゴムのような肉、冷たいパン。これが1600円」とフランス語で批評したものがツイッターに投稿された。瞬く間にツイートは拡散し、ネット上で話題になった。
果たしてハンバーガーは不味いのか。ボランティアとして入場できる筆者は実際に食堂を訪れ、注文してみた。
失礼を承知で、酷評されているツイートと画像を店員に見せ「これと同じものを頂けますか?」と聞いた。女性の店員は少し黙ったあと「ああ、このツイートですね。知っています」と話し、「私も食べましたが、そこまでひどいものではないですよ」と続けた。店員によると、画像はおそらくフランスバーガーだという。「100%ビーフなので少し硬いのは仕方がないし、オリンピック価格なので納得してほしい」と言う。
いざ実食。値段は張るが、まあ美味しいというのが率直な感想だ。ハンバーガーのバンズが厚く、口を大きく開けないと食べられない。トッピングされた卵の味はあまりしなかったが、肉は酷評されるほどの味ではないと感じた。ポテトは量が多く、ケチャップが足りなくなるほどだった。
意外だったのが、利用者の多くがさほど悪いイメージを持っていないことだ。食堂で出会った香港から来た男性は「食事も飲み物もとても高い、信じられない」と話していたが、イギリス人の記者は値段について「驚かないよ、イギリスでは普通のお店でもこれくらいするときがある」と言う。話題になったツイートの話をすると、「知っているよ。でも、そんなことを言うのは少数の人だよ」。そのうえで「この食堂は24時間営業だし、利便性を考えても納得の値段だと思う」とも語った。アメリカから来た男性も、「安くないけど普通の値段だと思う、他に選択肢がないから利用している」と話していた。
■280円のコカ・コーラ
ハンバーガーだけでなく飲み物の値段も高い。報道センター内で販売されている飲料はスポンサーのコカ・コーラ社のみ。コーラは1本280円。それにもかかわらず、設置された自販機でたまに購入している人を見かける。
280円のコカ・コーラゼロを購入した2人組の記者はカリフォルニアから来たのだという。「高くないのか」と筆者が尋ねると、「容量はもう少し多いが、カリフォルニアの飲み物はこのくらいの値段だよ」と答えた。アイルランドから来たカメラマンも同様に、「自分の国で買ったら2.1ユーロか。安くないけど理解できる」と話していた。
■一人のツイートが全てではない
火付け役になったハンバーガーのツイートに対して、「これが、日本のおもてなしか」や「世界に恥をさらしているようだ」といった反響があった。また、細かい点だが、元になったツイートではMPCを『メディア・プレス・センター』と誤表記しているが、正しくは『メイン・プレス・センター』である。
確かに、報道センター内で販売されている飲食物は高い。しかし、実際に話を聞いて、多数の人が値段に納得して購入していることがわかった。報道センター内の様子は公開される機会が少なく、個人の意見が全体を代表するように見えてしまうこともある。飲食物の値段が安いに越したことはない。オリンピックの実態を知れば知るほど、受け入れ難い思いはあるものの、この値段は仕方ないような気がしてきた。
参考記事:
24日付 日本経済新聞夕刊(埼玉3版)1面「熱戦 静かに切り撮る」
参考資料:
共同通信 「五輪の報道拠点、ムスリムに不評」
東京都オリンピック・パラリンピック準備局 IBC/MPC